練習そのものも大きく変わった。シャンソン化粧品シャンソンⅤマジック時代は3対3や4対4、5対5といった実践的な練習が多かったが、トヨタ自動車ではディフェンスだけでも多くのドリルがあり、それを覚えるところから始めなければならない。チーム内のルールも以前より多くなったが、それでもチームメイトのレベルが高く、練習の質もおのずと濃くなって、気づけばあっという間にシーズン開幕となった。移籍間もない河村も間違いなく充実した日々を送れている。
「“トヨタのバスケット”という観点ではみんなのほうが浸透しています。だから私からチームの動きについては言えません。むしろ自分のほうがわからないから教えてもらっています。でもスクリーンの角度とか、掛け方、合わせるタイミングなどは『こうしたほうがいいよ』とか、『じゃあ、私はこうするね』と言うようにはしています」
移籍をしたからといって、すべてを白紙に戻すわけではない。むしろシャンソン化粧品で培った精度の高いスクリーンの技術は、トヨタ自動車の新たな武器にもなりうる。それこそが移籍の一番のメリットといっていい。
チームとして目指すところはひとつだけだ。目下Wリーグ11連覇中のJX-ENEOSサンフラワーズをその座から引きずりおろし、自分たちがその座に就くこと。アジアカップで長岡、エブリンが抜け、3×3のU23ワールドカップでステファニー、山本麻衣が抜けるなど、選手のそろわない時期も多かったが、それはJX-ENEOSなど日本代表選手を抱えているすべてのチームの共通すること。言い訳にはできないし、河村自身、それを言い訳にするつもりもない。「その間も2対2や3対3で質の高い練習ができていたと思うし、練習試合などで5対5をして、できるプレー、できていないプレーがわかって、それをすぐに修正できています」と新しいチームに自信と手応えを感じている。
その一方で、個人としては大きなケガからの復帰で100%の状態で開幕戦を迎えられるかどうかはわからないと、不安を吐露する。結果として1点差で勝った開幕戦ではチームトップの16得点をあげたが、24点差で敗れた第2戦では4得点に終わった。得点がすべてではないにせよ、まだまだ修正すべき点はありそうだ。
そんな河村が目を向けるのは、いかにトヨタ自動車の支えになるか。
「トヨタはあまりインサイドらしいインサイドがいないイメージだったんです。たとえば(馬瓜)エブリンとかモエコさん(長岡)はアウトサイドが得意で、そのうえでインサイドもやる選手。その2人がインサイドで頑張る時間帯を自分が少しでもカバーできたら、2人が最も合っているポジションでプレーできると思うんです。ただ2人ともぎりぎりまでアジアカップに行っているから、その分センターである私とムチャさん、ステ、脇……なかでも私が頑張って、2人の負担を減らしたいと考えています。私が相手のビッグマンとガンガンぶつかりあう役割を担うことで2人の負担が軽くなるんだったら、私はぶつかるプレーが結構得意だし、頑張りたい。自分が自分がというよりは、他の人たちのためにどうやればチームが一番機能するかを考えてやっていければと思います」
移籍1年目の選手にこの表現は適切ではないかもしれない。しかしセンターというポジションでチームを支えようとする河村には最も適切な表現だといえる──すなわち“大黒柱”。Wリーグ7年目のシーズンとなる河村美幸は今、トヨタ自動車アンテロープスの大黒柱になるべく、力強い一歩を新たに踏み出している。
トヨタ自動車アンテロープス #45 河村美幸
私はまだまだうまくなれる!
part1「3度目のケガを克服し、新天地へ」
part2「チームを支える大黒柱へ」
文 三上太
写真 沼田侑悟