「正直なことを言えば、いくつかのチームから声をかけていただいた中にトヨタがあったときは『なんで?』という言葉が真っ先に浮かびました。あれだけのメンバーがそろっているのに、なんで自分に声を掛けたんだろう? って」
確かにトヨタ自動車のセンターらしいセンターと言えば、昨シーズンで退団した馬伊娜や、河村と同じように昨シーズンをケガで苦しんだ森ムチャくらい。脇梨奈乃や馬瓜ステファニーもいるが、彼女たちはまだまだ若く、今後プレーの幅を広げていくことになるタイプだ。それでも森、脇、ステファニーに加え、インサイドでもプレーできる長岡萌映子や馬瓜エブリンがいる。これだけのタレントがいるのにと、河村が逡巡したのも無理はない。
「ただ今シーズンから指揮を執ることになっていたルーカス・モンデーロさん(現ヘッドコーチ)から電話をもらったときに、私は昨シーズンまったくプレーしていないんですけど、その前のシーズンのプレーを映像で見てくれたらしく、『こういうプレーと、こういうプレーが足りないから、もしトヨタに来てくれたら、そうしたところも練習をしていこう。2年後、3年後には、いいセンターになれるように指導していきたい』と明確に伝えてくれたんです。ほかのチームはたいてい『うちに来てください』、『センターがいないから、ぜひ力を貸してください』という感じだったんですけど、そこまでヘッドコーチに具体的に話してもらったときに『トヨタは他のチームと違うな』と思って、トヨタでやってみたいなと思ったんです」
シャンソン化粧品での最後のシーズンを棒に振った河村だが、リハビリと併せて、チームの若いセンターたちに自分が教わってきたこと、桜花学園やシャンソン化粧品、日本代表などで培ってきた技術などを伝える役割を担っていた。年齢的にも若手と呼ばれる年齢ではない。そう考えると、これからどこでプレーをするにせよ、自分が表に立ってプレーしたり、自分のレベルアップを図るよりも、若い選手たちを育てながら、彼女たちをサポートする選手になるのだろう。そうして現役選手としての階段を下りていくことになるんだろうな。おぼろげにだが、自分の行く末をそう思い描いていた。
しかしモンデーロヘッドコーチは河村にそれを求めなかった。いや、実際には今もトヨタ自動車の若い選手たちにさまざまなことを伝えてはいるが、それとは別に自分自身を磨くことに力を注ぐこともできている。
「ルーカスさんと話したときに、自分もまだまだうまくなれるチャンスはあるんだなと思ったんです。シャンソンでは周りの子たちの面倒を見なきゃって思いながらやっていたんですけど、自分もまだまだうまくなれる可能性があるんだったらやってみたいなと思ったんです」
確かに河村は若手ではない。だが一方で自分の可能性に目を背ける年齢でもない。伸びしろもまだまだ大きい。それを感じられたからこそ、河村はトヨタ自動車での再出発を決めたのである。
part2「チームを支える大黒柱へ」へ続く
文 三上太
写真 沼田侑悟