※本記事はバスケットボールスピリッツのWEB化に伴う、2018年11月末発行vol.27からの転載です。FIBA女子アジアカップを日本代表が4連覇し、今週からは2019-20シーズンのWリーグがいよいよ開幕!ということで昨季フリーペーパーで「Wのキーパーソン」として紹介した4選手のインタビューをお届けします。
2017-2018シーズンを終えるころ、井澗絢音は4年間在籍したシャンソン化粧品シャンソンVマジックを辞め、リーグに移籍届を出す決意をした。
「移籍を考えた理由の1つはケガです。昨シーズン、左ヒザの前十字靭帯を切りました。シャンソン化粧品に入った1年目にも同じケガをしていたので、どうしようかなと。どうしようかなというのは、引退も視野に入れていたってことです。移籍届を出して、取ってくれるところがなければ引退も考えていたんです」
手を挙げたのは、そのシャンソン化粧品で一時代を築き、日本代表のヘッドコーチとしてもアトランタ五輪に出場した中川文一ヘッドコーチだ。今はトヨタ紡織サンシャインラビッツを率いている。中川ヘッドコーチは以前から井澗の才能に目を向けていたのだと認める。
しかし井澗はけっして目立つ存在ではない。中学と高校はともに日本一を経験し、U16、U17の女子日本代表にも選ばれているが、どちらかといえばおとなしい、もっといえば影の薄いタイプの選手だ。それでもディフェンスとリバウンドの嗅覚はどのカテゴリーにおいても異彩を放っていた。それこそが中川ヘッドコーチを惹きつけ、井澗自身も認める武器である。得点を取れなくても、生きる道はある。
「中学のときに顧問の先生から『コートの中では人を変えろ』と言われたことをすごく覚えています。性格がすごく弱いからコートの中では強くできるようにという思いで言ってもらったんだと思います。それで意識は変わりました」
バスケットを始めた頃は自分がWリーグでプレーするなど考えてもいなかった。しかし中学時代にその才能を芽吹かせ、高校で野心的なチームメイトに交わったことでおのずと道は拓かれた。そして今──。
「2020年も少しは意識しています。そのためには得点力を磨かなきゃって思っています」
井澗絢音は静かに燃えている。
文・写真 三上太