── そのWNBAを含め、お二人は世界のバスケットにも精通していると思います。萩原さんはアンダーカテゴリーのヘッドコーチを務めていますし、大神さんも今シーズン終了後に女子のユーロリーグを観戦しにロシアまで行ったと聞きました。今の世界はどんな状況で、日本はそのなかでどのような位置にいますか?
萩原 女子に関していえばそれほど差はないと感じています。戦えない相手ではなくなってきているなと思います。これはアンダーカテゴリーも一緒で、バスケットの中身は違うところもあるんですけど、私たちが現役だったころは世界選手権(現・ワールドカップ)に行っても16位とか、そのあたりだったから、そのころに比べると今はトップ10に入ってこられるようになってきているし、世界はだいぶ近づいてきていると思います。
大神 自分もそれをすごく感じます。本当に女子は可能性が十分にあると思います。正直に言えばアメリカは頭抜けていると思いますが、それこそ五輪に出るのは12チームで、その2位から12位は(順位ほどの)差はないのかなと思います。
萩原 そうだね。その要因はたぶん2つあって、1つは人材。選手がいるってことですよね。渡嘉敷来夢の存在は間違いなく今の女子日本代表にとって大きいんです。ただ渡嘉敷レベルとまではいかないまでも、ちょっとずつ体は大きくなってきている。今は180㎝台前半の選手がオールラウンドにプレーできる。そのあたりが変わってきているのかなって。
もう1つは、今日のテーマにもつながるんですけど、女子はアトランタ五輪に出て、その次のシドニー五輪こそ逃しているけど、その次のアテネ五輪にはまた出て、北京やロンドンは逃しているけど、ずっとOQT(世界最終予選)で世界の扉を叩き続けている。そして一昨年のリオデジャネイロ五輪でしょ。つまり女子は世界に出るのが当たり前みたいになってきている。そこはすごく大きいと思います。
大神 うん、うん。
萩原 北京とロンドンは結果として出られなかったけど、OQTを戦った8年間というのはすごく大きな意味があって、シンたちがトライして、トライして、トライして、最後はダメでという……北京のときは私もアシスタントコーチとして女子日本代表に入っていたんだけど、あれは大きいですよね。あれがあるから今があると思っています。
大神 今、オーさんに言ってもらったことで振り返ると、確かに2008年のOQTでは最後の1枠を争う一歩手前の準決勝でキューバとギリギリの戦いをしたし、私にとって最後となった2012年のOQTでは、それこそ最後の1枠を争う決勝戦でカナダとギリギリの戦いまで持ち込むことができた。これは日本が世界で戦うのは当たり前になってきている証拠というか、あと一歩のところなんだって思えるんですよね。それこそ当時若手だった選手たちが今の代表の中心にいるわけです。リュウ(吉田亜沙美)もそうだし、今の女子日本代表の主力クラスがあのOQTで負けを経験していることを考えると、やっぱり「負けから勝っていく」んだな、あの8年は大きかったんだなって思います。もちろんバスケットスタイルも渡嘉敷が入ったことで大きく変わったし、最近では宮澤(夕貴)や長岡(萌映子)、馬瓜(エブリン)など、身長が180㎝台でフォワードのできる選手が増えましたよね。
萩原 (赤穂)ひまわりとかね。
大神 そう。あの8年間にも藤吉(佐緒里)など比較的身長が大きくてフォワードのできる選手はいたんですけど、間違いなく今のほうが大きいですよね。そう考えると、渡嘉敷もそうだけど、3番ポジションと4番ポジション……「ストレッチ4(フォー)」を含めて、そこができるようになってきた選手が増えたことは戦術的にも強みになりますよね。中国は3番から一気に190㎝台になりますから。そこのミスマッチを突かれるとか、世界的にそういう状況なので、今の日本のバスケットにそのポジションの人たちが増えたのは大きいかな。
萩原 以前、女子日本代表を率いていた内海知秀さんがよく言っていたのは「3番がいない」だったんです。それこそ藤吉も藤原(有沙)、内海(亮子)などは170㎝台。あそこから比べると今はちょっとずつ大きくなってきているんだよね。
大神 今のアンダーカテゴリーだと、奥山(理々嘉・八雲学園3年)や今野(紀花・聖和学園3年)などは170㎝後半で2番をするなど、ガードも少しずつ大きくなってきているように思うから、これからが楽しみですね。
特別対談は延長戦へ続く
【全文掲載】女子バスケットのレジェンド初対談! 大神雄子×萩原美樹子の「女子バスケ温故知新」
① 出会い~朝のジグザグディフェンス
② WNBA〜道を切り拓いた2人
③ 世界〜日本女子の可能性
④ 言葉〜本気で海外を目指すなら
⑤ 挑戦〜おわりは次への第一歩
文 三上太
写真 安井麻実