長岡萌映子を支える夢
誤解を恐れずに書けば、今回の移籍情報のなかで最も驚かされたのは長岡萌映子のそれだろう。富士通レッドウェーブのエースが、まさかチームを離れるとは……そう思ったファンも多かったに違いない。
「理由はいくつかありますけど、一番の決め手になったのは自分自身のうまくなれる環境がトヨタにあったということです。トヨタが昨シーズン準優勝したからではなく、自分がどれだけうまくなれるかを考えて、トヨタへの移籍を決断しました」
葛藤はあった。リーグ5位という不本意な結果で終わった昨シーズンで富士通を離れることは、チームメイトやスタッフ、そして応援してくれたファンに対して申し訳ない。それでも、自分の決断を「わがままと捉えられるかもしれない」と認識したうえで決意したのは、リオデジャネイロ五輪がきっかけにある。ほとんど出場機会を得られず、悔しさとともに帰国した彼女はこう考えた── 「ヘッドコーチの好みやスタイルをしのぐだけのうまさ、強さがあれば使わざるを得ない。そういう選手にならなければいけないんだ」と。
むろんトヨタ自動車に移籍をしたからといって、誰が見ても圧倒的だと思わせることは、けっして簡単な話ではない。タイムシェアによる出場時間の制限が彼女の思いの足かせになることも考えられる。しかし今の長岡はそれさえ自分を改善する要素だと前向きに捉えている。
「タイムシェアで自分のパフォーマンスがいつでも100%出せる……流れがよいときに替えられることもあると思うけど、そのときは『次に出たときに何をしなければいけないか』を学べると思うし、今まで『モエコは試合の中で浮き沈みがあるよね』と言われてきたけど、それがタイムシェアで改善できると思うんです」
好不調の波の大きさは今回のアジアカップでも露呈した、長岡の課題のひとつでもある。
日本人のなかでも特に海外志向が強く、将来は海外のリーグでプレーしたいという夢も持つ長岡。その実現のためには1日でも早く、自分の理想とするプレーヤー像に近づきたい。夢こそが長岡を支える最大のモチベーションなのである。
期せずして同じ年の3人が同じタイミングで同じチームの門を叩いた。さまざまな思いを抱え、周囲の賛否両論をすべて受け入れながら、覚悟を決めて進む彼女たちに注目したい。
文 三上太
写真 吉田宗彦