しかし同じ体制で臨む2シーズン目、つまりは今シーズンのトヨタ自動車は1次ラウンド、2次ラウンドともに2位で通過すると、そのままファイナルまで駆け上がった。そこに大神のリーダーシップは欠かせない。
「リーダーシップって行動で見せて、気づかせることだと思うんです。だから久手堅(笑美)とも『チーム練習だけではなく、トレーニングから自分たちのマックス(最大限)の力を出してやろう』って話して、それを実践しています」
むろん発言もしていく。それもチームメイトの行動を引き出すためのものだ。
「試合もそうですが、練習でも毎日いいことばかりではないし、うまくいかないこともあります。そんなときでもリアクションではなく、アクションを起こせるような発言をするようにしているんです」
うまくいかないときにその感情に囚われるのではなく、そうした気持ちを受け入れたうえで「次はこうしてみよう!」と次の行動を促す言葉をかけ、チームメイトを引き上げていく。何とも大神らしいリーダーシップである。
「もちろんアスリートとしてはその場での結果を求めているわけだけど、結局のところ、翌日になれば過去になるし、5年後、10年後になれば、すべてが経験になっているわけですよね。だったらそれを生かすために何をすべきか。そうしたプロセスの中で培われてきた自分の信念のほうが大事で、自分にとってのそれが何かといえば、行動で示す……その一瞬一瞬を行動で示すことなんです」
大神が「行動で示す」、つまりアクションを起こすのは「人が好きだから」だ。人が好きだから近づき、話しかける。経験を伝える。そうして大神雄子というリーダーは築かれていく。
「自分の中にも完璧なリーダー像はできていなくて、今もリーダーシップについて、自分なりにいろんなことを考えますよ。今の状況をあの人だったらどうするだろうか? ああ、こうしておけばよかったかな。そういう葛藤は常にあります。だからまだまだ、自分が向上心を持って取り組めているテーマでもあるのかなと思っています」
3月12日に幕を閉じた2016-2017シーズンのWリーグ。大神を擁するトヨタ自動車はファイナルでJX-ENEOSに3連敗を喫し、その頂点に立つことはできなかった。しかしポイントガードとして、ベテランとして、そしてキャプテンとして挑んだ今シーズンは、大神にとって自身何度目かの飛躍の年でもあった。もはや「JX-ENEOSの大神」ではない。正真正銘の「トヨタ自動車アンテロープスの大神」として、その強烈なリーダーシップを発揮している。
「どんなことが起きようとも、アクションを起こさなければ何も始まりませんからね」
アクションこそが大神雄子のカラーであり、彼女がいるチームのカラーもおのずとアクティブなそれになっていく。
文・写真 三上太