※本記事はバスケットボールスピリッツのWEB化に伴う、2017年3月末発行vol.7からの転載
大神雄子がリーダー論を語るとき、忘れられない言葉がある。JOMO(現JX-ENEOS)サンフラワーズ時代、OGである萩原美樹子氏に言われた言葉だ。
「チームのカラーはキャプテンのカラーだからね」
ときはJOMOが低迷していた時期である。シャンソン化粧品との2強時代が終焉を迎え、JOMOが第1期の黄金時代を迎えた2000年代初頭。しかしチームを支えていた小磯典子(旧姓浜口)、楠田香穂里(旧姓川上)、大山妙子らが引退すると、後を継いだ大神らはいきなり辛酸を舐めさせられる。ベテランが抜けた2004-2005シーズンは4位に沈み、翌2005-2006シーズンはプレーオフ圏外の5位にまで落ち込んだ。
キャプテンを務めていた大神は悩んだ。なぜ勝てないのか。自分たちの何が悪かったのか。どうすれば、この闇から抜け出すことができるのか。いつも元気で、明るく、活発なイメージが強い大神だが、その一方で一度落ち込むと部屋から出られなくなるほど、深く考え込む一面を持っている。そんなときにOGの萩原氏が声を掛けてきたのだ。
その言葉にハッとさせられた。そうか、チームのリーダーであるキャプテンが落ち込んでいたら、チームも落ち込んだまま、沈んだカラーになってしまう。苦しいけれども、自分が率先して次に向かう行動を起こさなければいけないのではないか。
「それ以降、行動すること、挑戦すること、声を出すことにはそれだけ責任があることだと常に胸に刻んで、やってきました」
その後JOMOは覇権を取り戻すと、2007-2008シーズンこそ富士通レッドウェーブにその座を明け渡したものの、2008-2009シーズン以降、今シーズンに至るまでリーグ9連覇を成し遂げる2度目の黄金時代に突入している。
その間、大神個人にもさまざまな変化が訪れていた。キーワードを挙げれば「WNBA」、「WCBA」、「世界選手権得点王」、「アジア選手権制覇」。 ポジティブなものだけではない。「ケガ」、「アジア人枠撤廃による浪人生活」……誌面では詳細を書き記せないほど、さまざまな経験を重ねてきた。 しかし一番のトピックスはトヨタ自動車に移籍したことだろう。
その初年度はドナルド・ベック体制となり、新たなバスケットスタイル、新たな文化が持ち込まれたことによるチーム全体の戸惑いがあった。加えて大神が、女子バスケットにはまだ数少ない「移籍」という形で入ってきたことで、チームはさらに揺れた。
「自分自身ではそんなつもりはないのに、周りがことさら『JX-ENEOSの大神がトヨタにやってきた』と強調して言うから、チームメイトも同じように思っているように感じていたんです。それがお互いの遠慮につながっていました」
結果はプレーオフ圏外の5位と低迷する。