いつでも見られるときにはあまり感じないものだ。だが、別れは突然やってくる。それは寂しく、そして悲しい。顔を上げ、脳裏に焼きついたプレーを思い出すと、違う感情が沸いてくる。スーパースターと同じ時代を共有できた幸せと感謝の気持ちで溢れていた。
中田英寿しかり、イチローしかり、マイケル・ジョーダンしかり……である。そんなスーパースターと肩を並べる日本バスケ界の至宝が、吉田亜沙美だ。もし、彼女が繰り出すクリエイティブなパスをジョーダンが受けたならば、いったい何本のアシストを積み上げられるのだろうか。
JX-ENEOSサンフラワーズに13シーズン在籍し、12回のリーグ制覇を成し遂げた。2年目の2007-08シーズンこそ準優勝に終わったが、翌シーズンは頂点に返り咲く。そこから最後まで負け知らずのまま11連覇の新記録を樹立し、自らの花道を飾った。リオデジャネイロオリンピックでは一瞬とはいえ、アメリカ代表を本気にさせた。翌2017年にアジアチャンピオン3連覇達成したのを最後に日本代表から距離を置く。昨年行われた女子ワールドカップでは、各国の選手や関係者たちから「吉田はどこだ?」と聞かれたほど、日本が誇るワールドクラスのポイントガードである。
昨シーズンは36試合の全てで先発を任されたが、今シーズンは一転、いずれも途中出場だった。ベンチに吉田が控える恐ろしさったらありゃしない。彼女がコートに立った瞬間、ピンと張り詰めた空気にガラリと変わる。相手を凍りつかせる活躍で、Wリーグのベストシックスマン賞を受賞。新たな役割を発見したことで、まだまだ恐ろしい姿を見ていられると、このときは思っていた。
スピリッツアワード選考委員会はスタッツなどを並べなくても、MVPは決まっていた。すでに引退を表明した吉田に対し、最後にプレゼントできるならば最高の賞が良い──そんな思いが一致した。
その吉田の背中を追ってノミネートされたのは三菱電機コアラーズの渡邉亜弥である。なぜ女子日本代表の候補にも入っていないのか、とメディアの間でも話題になった。吉田がいない来シーズン、JX-ENEOSに対してリベンジできれば、飛び級でいきなりオリンピアンへの道が開けるかもしれない。外国籍選手はいないが、Wリーグは常に世界を意識した戦いが繰り広げられている。その先頭を走っていたのがスーパースターの吉田であり、日本の女子バスケを世界レベルへ引き上げてくれたことに感謝したい。
映像提供:バスケットLIVE
文 バスケットボールスピリッツ編集部
写真 三上太