※本記事はバスケットボールスピリッツのWEB化に伴う、2017年4月末発行vol.8からの転載
スポーツにおける個人賞で「MIP賞」と呼ばれるものがある。NBAでは「モースト・インプルーブド・プレーヤー(最も成長した選手)」として、前年度と比較して成長している選手に与えられるそうだが、一方でファンが選ぶ「モースト・インプレッシブ・プレーヤー(最も印象に残った選手)」のそれもある。
もしWリーグに「MIP賞」があったとしたら、どちらの意味であっても、今シーズンは間違いなく宮澤夕貴が受賞しただろう。前年度まではバックアップメンバーを務めていた彼女が、今シーズンはスモールフォワードとして全試合にスタメン起用され、Wリーグのベスト5にも選出されているのだ。
そんな宮澤の急“成長”を強烈に“印象付けた”のが3ポイントシュートだろう。入団以来4シーズンでたったの1本しか打っていない3ポイントシュートを、今シーズンはプレーオフを含めると193本も打っている。成功率もリーグ9位に食い込んでいる。
なかでも最も印象的だったのが2016年10月7日の開幕戦、対富士通レッドウェーブ戦だろう。宮澤は12本中6本、確率50%の3ポイントシュートを決めて、その後、優勝するまで負けなしを貫いたチームのスタートダッシュに大きく貢献した。
「(富士通は私の3ポイントシュートを)絶対に捨ててくるって思いましたもん……だから絶対に打てるなと」
そう振り返る宮澤に対し、敵将である富士通の小滝道仁ヘッドコーチも「想定外でした。いつか落ちると思っていましたが、宮澤選手は気持ちを強く持っていました」と脱帽するほどの会心の出来だった。こうして宮澤の“新章”は幕を開けた――。
焦燥と悔恨と成功体験と
神奈川・県立金沢総合高校のエースとして高校総体を制し、17歳以下の世界選手権では得点ランキング2位になった宮澤は「自分が将来通用するのはスモールフォワードだと思っていたので、そのポジションでプレーさせてくれるところ」と考えて、JX-ENEOSへの入団を決めた。しかしスモールフォワードへの道のりは遠い。
入団直後からトム・ホーバスコーチ(当時。現・女子日本代表ヘッドコーチ)からワンハンドシュートへの変更を要求される。ツーハンドで世界2位まで登り詰めた宮澤にとっては、青天の霹靂と言ってもいい。初のアメリカ遠征ではチームメイトがツーハンドで3ポイントシュートを練習しているなか、彼女だけはシュートフォームを固めるため、ゴール下での練習を余儀なくされた。
「葛藤はありましたよ。ツーハンドに戻したいって思いましたし、焦りもありました。フォームが窮屈で思うように打てないし、届かないし……『ハァ? 今さら?』って思いながらやっていましたもん」