「もちろんそれ以外にもありますけど、専修大学ではエイトクロスを使っていたので、ピックからのパスの技術は結構身についていたんです。でも大学時代はパスを出してもロールした選手がキャッチできなかったり、パスが通ってもフィニッシュがよくなくて決まらなかったりしていたんです。デンソーでは学生時代に『強い』と言われてきた自分のパスをしっかりキャッチして、決めてくれる。このことにすごく感動しちゃって……」
そこにはもちろん高田真希という日本でもトップクラスのパワーフォワードがいることも大きいが、渡部にとっては盟友ともいうべき赤穂さくらの存在がさらに大きいと言う。
「これを言うと本人が調子に乗るのであまり言いたくないんですが、(デンソー入りを決めるのに)さくらの存在はめちゃくちゃ大きかったです」
4年のブランクを経て、再び盟友とともに目指す頂点への道のり。渡部は始まったばかりの新しいチャレンジについて、こう言っている。
「まずはチームを勝たせられる選手になりたいです。そのためにはまだまだ足りないことが多いので、それを少しずつ克服できればいいなと思っています」
その一方で渡部は7月にイタリア・ナポリで開催される「第30回ユニバーシアード競技大会」に参加する女子ユニバーシアード日本代表の候補選手にも選ばれている。3月下旬におこなわれたチャイニーズタイペイ遠征にも帯同した。
夢は高く、さくらとともに日本代表入りか――しかし本人は「先のことはあまり考えていない。まずは自分がうまくなっていくことが一番」と目の前だけを見つめている。
「やはり自分が楽しめないとうまくならないと思うし、嫌々やっていても上にはいけないと思うので、まずは自分が一生懸命、楽しみながらやることで、あとから結果がついてくると思うんです。今回のユニバーシアードの合宿もそうですけど、大学1年生から3年生まではそうした選抜チームにほど遠くて、でもそこで『もういいや』って思うんじゃなくて、それでもやり続けていたからこそ、デンソーにも入ることができたし、今回のユニバーシアードの遠征にも最後まで帯同させてもらえたのだと思っています。もちろん日本代表に選ばれたい気持ちもあるんですけど、そういうことを口にするよりは、もっと自分でできることがあるんじゃないかなってすごく感じています」
アーリーエントリーで一足先にWリーグの舞台に立ち、プレーオフも経験したが、まだ自分は何も成し遂げていない。だからこそまずは目の前の扉をひとつひとつ着実に開けていくだけだ。そのための一歩を渡部友里奈は力強く踏み出した。
part1【アーリーエントリーの絶妙】
part2【人としての幅を広げた大学での日々】
文 三上太
写真 吉田宗彦