今シーズンの吉田はスタメンの座こそ藤岡麻菜美に譲ったが、シックスマンとしてゲームの流れを変え、もしくは流れを加速させる役割を果たし、チームのリーグ11連覇にも大きく貢献した。レギュラーシーズンを含めて4試合、JX-ENEOSと対戦した渡部は「入ってくるだけでチームの雰囲気が一気に変わるというか、気が引き締まる。そういう力を持っていて、やはりすごい選手だなって思いました」と舌を巻く。
そして吉田とのマッチアップについてこう続ける。
「最初のほうは自分も何も考えずにやっていたんですけど、途中から意識し始めたときに、ちょっと怖かったです(笑)」
相手を震え上がらせるような迫力、勝利への執着心は簡単に培われるものではない。しかしそれを肌で感じられたことは、オフェンスを得意とする渡部にとって、吉田と同じ道を選ぶかどうかは別として、Wリーグで戦っていくためのひとつの指針にはなるはずだ。
レギュラーシーズンのJX-ENEOS戦こそ無得点に終わった渡部だが、セミファイナルでは初戦が10点、スタメン起用された第2戦では6点を挙げている。すべてではないにせよ、吉田の鬼気迫るディフェンスを受けながら得点を決めたことに一定の手応えを感じてもおかしくはない。しかし渡部はそこに嬉しさはないと言う。
「大学では20点、30点を取ることが普通だったので10点では……言い方が悪いかもしれませんが、それでは少し物足りないなぁって。むしろ結果が求められるプレーオフで(吉田さんに)マッチアップをしてもらって、吉田さんみたいにディフェンスのいい選手たちともっとマッチアップをしてみたいという気持ちがめちゃくちゃ出ました」
自他ともに認める攻撃型のプレーヤー。だからこそ、リーグ屈指のディフェンダーをひとつひとつ超えていきたいと考えている
「小嶋(裕二三・前)ヘッドコーチからも『ドライブに行け』、『切り込んでいけ』と言われていて、そのとおりにできたのは自分のドライブがWリーグでも通用することだと思うんです。でもそれを現状維持ではなく、もっと上のレベルに持っていけるようにしたいと思っています」
ディフェンスのいい選手たちともっとマッチアップしたい。得意のオフェンスをもっと上のレベルに持っていきたい。もっと、もっと、もっと――その向上心こそが渡部を突き動かす原動力になっていきそうだ。
part2へ続く
【人としての幅を広げた大学での日々】
文 三上太
写真 吉田宗彦