アーリーエントリーの絶妙
「デンソーアイリス10番、ワタベ選手の得点です!」
場内アナウンスがそう伝える。
デンソーのワタベ? 聞かない名前だな――そう思う方がいてもおかしくはない。渡部友里奈は、Wリーグが1月15日に発表したアーリーエントリーの1人だ。Wリーグにおけるアーリーエントリーとは「競技者が申請チームとの雇用契約あるいは入団契約が内定した場合に限り、入社および入団前にエントリー(競技者登録)できる制度」である。専修大学の4年生だった渡部はその制度を利用して、卒業と入社を待たずにWリーグのコートに立った。
「大学バスケはすごく楽しかったんですけど、物足りなさみたいなものも感じていたんです。だから大学バスケのシーズンが12月で終わって、そこから少しでも早くチームに溶け込みたいとアーリーエントリーをさせてもらいました」
以降、デンソーアイリスがプレーオフ・セミファイナルでJX-ENEOSサンフラワーズに負けるまでの約1か月、渡部は11試合のうち8試合に出場し――しかも最後の試合ではスタメンに抜擢され、平均得点3.6点とチームに新しい風を吹き込んだ。
「毎日がすごく楽しくて、レベルが高いし、自分よりもうまい人がたくさんいるので、そういうのを毎日、毎日見せてもらえるのはすごく刺激的な時間でした」
合流したのはチームがまだプレーオフ進出を決めていない時期だったが、十分にその圏内にいて、進出とともにいかにプレーオフで勝ち抜くかを突き詰めている時期だった。おのずと練習にも熱と緊迫感がみなぎり、試合でも、結果としてそのコートに立てなかったが、ホームコートであるウイングアリーナ刈谷がチームカラーの赤で染まるほどのダイナミックさを感じることができた。「大学のときにはありえないことだったので、とにかくすごいなと……」
むろん違いを感じたのはチームやリーグが醸し出す空気だけではない。プレーの強度や質、正確さもさることながら、ある選手から伝わってきた“勝利への執念”みたいなものに強く、そして深く感じ入ったという。
「自分の中で一番経験になったのは吉田亜沙美さん(JX-ENEOS。2018-2019シーズンで現役引退)とマッチアップできたことです。来シーズンからはできないことですし、自分と同期で入ってくる選手たちはマッチアップできないので、そう考えるとすごくいい経験になったかなと。マッチアップしたときの雰囲気はちょっと違うものを感じました」