Wリーグのレギュラーシーズンは残すところあと5試合。すでにプレーオフ進出を決め、現在2位と勢いに乗るトヨタ自動車アンテロープスは、「ご家族の都合によりチームを退団することとなりました」というリリースとともに、ドナルド・ベックヘッドコーチからジェームス・ダンカンアシスタントコーチが今後の指揮を獲ることが発表された。
選手たちに動揺が走る中ではあったが、日立ハイテククーガーズと新潟アルビレックスBBラビッツとの2連戦は勝利をつかむことができた。「新体制となりまだまだ分からないことも多いかもしれないが、とにかく全員で2連勝できて良かった」とダンカンヘッドコーチは安堵するとともに、勝利の喜びを分かち合った。
ピンチはチャンス!若手の突き上げに期待
「チームがフワフワしているところがあり、選手個々もどうすれば良いか不安に思っているところがありました」と明かすのは、キャプテンの森ムチャ選手だ。三好南穂選手も「この2戦は安定しなかった部分もあります」と試合内容としては納得がいくものではなかった。目指すべき目標は変わらない。頂点へ突き進むためにも、チームがひとつとなって戦うことの大切さをあらためて実感している。
今シーズンは新たなメンバーを6人迎え、2月に入ってさらに桜花学園高校の山本麻衣選手がアーリーエントリーで加入してきた。新体制となったことをきっかけに、「若い選手たちが突き上げてくれればうれしいです」と森キャプテンは、選手層に厚みが増すことを期待している。「誰だってミスはあることです。そこで下を向いてしまっても何も起こらないので、すぐに切り替えられるように率先して声がけはするようにしています」とバックアップも万全だ。
シャンソン化粧品シャンソンVマジックでは先発だったが、移籍してきたトヨタではシックスマンを任されている三好選手。戸惑いもあり、思うようなパフォーマンスを出せなかった時期を乗り越え、調子を上げてきている。チームに慣れた今は、「自分から声をかけることができるようになってきました」とコート上ではその輪の中心にいる。流れが悪いときに「ディフェンスでやり返さなければいけないのに、焦ってしまってそこに頭が回らなくなってしまいます」という状況のときこそハドルを組み、率先して声をかけられるようになった。
課題点は豊富なタレントたちのケミストリー
今シーズンよりアシストの定義(※注)が変わったことで必然的に増える傾向にある。トヨタのチームアシスト数は昨シーズンの12.1本から16.1本へと増加。だが、JX-ENEOSサンフラワーズの23.7本を筆頭に平均20本を越えるチームが多い中、トヨタは上位6チームの中で一番少ない。その原因について、ガードの三好選手は以下のような見解を示した。
「1番(ポイントガード)と2番(シューティングガード)の両方の役割を担っていますが、2番で出たときに感じるのは、トヨタは自分でリングまで行くことが多くなってしまう部分があり、そこでアシストが少なくなってしまっているのだと思います。積極的に攻めることによってディフェンスも寄ってくるわけですから、そこからうまく合わせられるようにはしていきたいです」
新潟戦では三好選手がドライブを仕掛け、そこから馬瓜ステファニー選手へ合わせた絶妙なアシストがあった。また、3Pシュートランキングで4位三好選手、5位長岡萌映子選手、6位近藤楓選手と上位におり、栗原三佳選手も完全復帰。コンビネーションの精度が高まり、アシスト数が増えることでトヨタはさらに進化できる余力が感じられる。
現在2位だが、皇后杯準優勝のデンソーアイリスが1ゲーム差でピタリと後を追う。「まずは自分たちのバスケットをすること」と森選手は脇目を触れることなく前進あるのみ。
「相手よりもまずは自分たちがやるべきことをやって、それを全て出して負けるのであればしょうがないですが、自分たちの力を出せないまま終わることだけは絶対にイヤです。後悔だけはしないように、やれることは全てやっていきたいです」
唯一、女王JX-ENEOSに黒星をつけたチームへの期待感
トヨタは今シーズン、JX-ENEOSを破った唯一のチームである。昨年12月9日、81-75で昨シーズン全勝優勝を成し遂げたJX-ENEOSに黒星をつけた。しかし、翌日は54-80で完敗。三好選手は、「やるべきことを徹底して戦い続けられたことが勝因でした。逆に負けた翌日は、やり続けなければいけなかったことができなかったからです」と課題は明確である。突き詰める部分に対し、「毎試合とまではまだいきませんが、たまたまできたではなく、しっかり意識してやるべきことができる試合が増えてきています」と手応えを感じている。森選手はキャプテンとして、「まだまだ自分たちはやれるよね」と声をかけながら完璧を目指している。
シーズン当初から取り組んできたことに対し、ヘッドコーチが変わっても「やるべきことは変わらない」と森選手と三好選手は声を揃えた。次節2月25日(日)、沖縄にてレギュラーシーズン最後のJX-ENEOS戦が待っている。
(※注)アシストの変更点
ペイントエリア内にいる選手へパスし、その後に複数回ドリブルをしても守られていなければパスした選手にアシストがつく。また、シュートモーションでファウルとなった場合でもフリースローが決まればアシストが記録されるなど、今シーズンよりアシストの解釈が大きく変わったことでその数が増える傾向にある。
文・写真 泉 誠一