今夏、世界の舞台で好成績を収めた女子選手たちの国内トップリーグである「Wリーグ」が10月7日より開幕した。無料配信されている「W-TV」(要登録)ではハイレベルな戦いを気軽に見ることができる。
東京羽田ヴィッキーズのホームエリアである大田区・片柳アリーナで開幕戦を迎えたデンソーアイリス。いずれも90点台に乗せ、守っては70点台に抑えて2連勝を飾った。小嶋裕二三ヘッドコーチは「50歳になり、今年は大声を出さないように努めたい」と話していたが、試合中は「違うだろっ!」「どうしてこっちに動かないっ!!」「ノーマークを作るなっ!!!」と檄を飛ばさずにはいられない内容であった。
90-71、97-75と結果だけを見れば快勝と言える。2戦目を勝利した後の第一声は、「がさつというか、稚拙というか、バスケットが幼いですね」とダメ出し。2戦目のリバウンド数は33:27本。高さで上回り、22点差をつけて勝利したにも関わらず、6本しか差がなかった。流れに乗りたいところで東京羽田にインサイドを対応されるなど課題は多く見られた。
7人の新人選手を迎え、例年とは違ったルーティンで臨んだ開幕戦
近年のデンソーは引退者が相次ぎ、昨シーズンのロスターは11人だった(途中からアーリーエントリーの畠中春香選手が加入し12名)。その状況を逆手にとった小嶋ヘッドコーチは、中堅選手たちの経験値を伸ばそうと画策。しかしケガ人が続出し、6人で戦わなければいけないゲームもあり、経験値を伸ばせるような状況ではないまま昨シーズンを終えている。Wリーグの契約期限が変わり、選手の意向を尊重する本来あるべき姿になった今シーズン。移籍市場がにぎわう中、デンソーが新たに迎えた7人は新人選手ばかりである(畠中選手を含む)。
「開幕に向けて練習試合を組んで準備してきましたが、やっぱり本番とは違います。今シーズンは開幕もなにもなく、すべてが過程でしかないです。リーグ戦を通して少しずつステップアップしていくしかありません」と小嶋ヘッドコーチは、これまでのルーティンとは全く異なるシーズンを迎え、手探りながら新たなスタートを切った。
物怖じしないルーキーだが、デビュー戦だけは「緊張しまくった」妹・ひまわり
大きな声を出してしまう裏返しとして、「これまでよりも全体的にレベルが高い選手たち」と小嶋ヘッドコーチは新戦力に大きな期待を寄せている。この夏、世界4位となった女子U19日本代表選手の笠置晴菜選手と赤穂ひまわり選手、銀メダルを獲得した女子ユニバーシアード日本代表の田村未来選手。それ以外もそれぞれの候補選手に選出された逸材揃い。国際経験を積んだ選手たちに対し、「物怖じしないところは出ています」と小嶋ヘッドコーチは評価する。その一方で、女子日本代表選手たちの多くが“Wリーグの方がすばしっこい”と口を揃える課題にぶつかっていた。
「世界で日本が通用する部分とそれが国内リーグでは通用しない部分があり、そこは難しいところ。その辺りの戸惑いが、田村あたりには少しあるのかな。ユニバではドライブに行けば抜けていましたが、そこをバッと守られたときにどうするか。そういうところが世界を知った彼女たちの課題になります」
赤穂さくら選手の妹・ひまわり選手は、「代表でずっと3番(フォワード)をやっていて、デンソーでも同じポジションなのでうまくつなげられ、同じプレーができています」と話し、その力を早くも発揮している。第1戦はエース髙田真希選手の37点、姉・さくら選手の18点に次ぐ16点を挙げた。しかし、開幕戦だけは「緊張しまくった」と予想外の返答に驚かされる。翌日も15点を挙げ、上々のデビュー戦となったが「まだ、もっと行けるなと思います」とさらなる高いレベルを見据えている。
髙田選手は、「ひまわりは新人じゃないみたい。思い切ってプレーしてもらいたい」とサポートし、その長所を引き出していた。
180cm台を6人揃え、アウトサイドからの攻撃を目指す
チーム内で2番目に大きなひまわり選手は184cmながらフォワードを担う。一番大きい185cmの畠中選手もインサイドだけではなく、シュートエリアは広い。この2試合でそれぞれ1本ずつだが3Pシュートを決めている。チームの柱となる髙田選手(183cm)とさくら選手(183cm)とともに、オコエ桃仁花選手(181cm)、粟津雪乃選手(180cm)と180cm台が6人も揃った。これは女王JX-ENEOSサンフラワーズより多く、移籍メンバーを多く受け入れたトヨタ自動アンテロープスに並ぶ。
「今まではインサイドを重視していましたが、もう少しアウトサイドから攻撃したい。サイズのある選手たちがアウトサイドから攻めることもそうですが、小さい選手たちがもっとどんどんアタックしていくようにしています」(小嶋ヘッドコーチ)
オフェンスでは目覚ましい活躍を見せたひまわり選手だったが、ディフェンスではまだ思うようにいかない。「フィジカルが弱いので、バンとぶつけられたらまだまだ負けちゃいますね」と自分自身でもその課題は分かっている。一朝一夕でどうすることもできない部分であるが、数々の国際経験をヒントにしながら工夫して守る術を見出していくしかない。
次節から三菱電機コアラーズ(10月14-15日)、トヨタ自動車(10月21-22日)、シャンソン化粧品シャンソンVマジック(10月28-29日)と昨シーズンの上位チームとの対戦が続く。小嶋ヘッドコーチは「経験を積ませながらも、なおかつ勝つようにしていかなければならない。難しい試合が続きます」と厳しい表情を見せた。だが、内容や結果次第では、新人選手たちが一気に勢いづく可能性も秘めている。
「若くてダメになってしまうか、若いからこその爆発力が出せるかのどっちかだと思っています。できれば後者になって欲しいと願っています」
シーズンを通してどれだけ小嶋ヘッドコーチを静かにさせられるかが、デンソーの調子を測るバロメーター。チームを支える髙田選手や伊集南選手だって、これまで怒られ続けてきた。なるべく大声を出さないようにしたいことこそ、ヘッドコーチの望みでもある。
文・写真 泉 誠一
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