平成29年度女子バスケットボール日本代表の強化合宿が始まっている。その第一次合宿が公開され、トム・ホーバスヘッドコーチが囲み取材を受けた。その際、一人の記者の質問からポイントガードの話題になった。ホーバスヘッドコーチはまず2人の選手について触れ、さらに別の記者から問われたもう1人の選手と併せて、3人の評価を口にした。そのなかで彼はこう言っている。
「日本代表には吉田(亜沙美)、町田(瑠唯)、三好(南穂)というリオ(五輪)を経験した3人のポイントガードがいる。それに藤岡(麻菜美)もいる」
評価された選手について、ここで触れるつもりはない。4月18日に発表された第2次合宿に呼ばれた日本代表候補のリストを見ても、東京五輪に向けた“司令塔”争いは上記の4人が大きくリードしているのは間違いなさそうだ。
むろん評価された3人を含む日本代表候補に選ばれたポイントガードたちも、そのすぐあとを追う存在としてホーバスヘッドコーチから認められ、そのプレーぶりを見てみたいと合宿に呼ばれている。チャンスがまったくなくなったわけではないし、むしろ先頭を走る4人が少しでも隙を見せれば、一気に牙をむいて襲い掛かる準備をしておくべきだろう。
では今年度の日本代表候補にさえ選ばれなかった選手はどうなのか?
2020年に向けて、すでにその芽は摘まれたということだろうか。いや、そんなはずはない。確かに2020年までは3年しかないが、その戦いはまだ序盤戦である。
安間志織(トヨタ自動車アンテロープス)は、WJBLが2016-2017シーズンから導入した「アーリーエントリー」制度を利用し、拓殖大学に籍を置きながら、トヨタ自動車の一員としてWリーグに参戦したポイントガードだ。ファイナルの舞台にも立ち、いち早く“日本最高峰の女子バスケット”を経験している。
「大学とはレベルが違います。プレーの質もそうだし、シュート力も、フィジカルも全然違うなと。でもそこは他の人(同期入団の選手たち)よりも先に体験ができて、高いレベルの人たちと1カ月半くらい練習もさせてもらって、しかもファイナルの舞台まで連れてきてもらったので、すべてにおいてよい経験ができたと思います」
2次ラウンド以降の濃密な約1か月半を、安間はそう振り返る。一方でそんな「よい経験」とは裏腹に、ファイナルでは自分のプレーが出せなかったと、自らへの憤りも口にする。
「ファイナルの第1戦に出してもらったけど、あのときは自分にムカついたというか、何をしているんだろうって思いました。自分でも何がダメだったのかをいろいろ考えて、第2戦でもチャンスがあればと準備をしていましたけど、第1戦がダメすぎてプレータイムをもらえなくて……」
そんな思いがあったからこそ、第3戦、安間は9分というプレータイムのなかで自分の持てるものを出そうと躍動していた。“新人未満”の選手ながら必死にチームメイトを動かし、攻撃の起点になりえようとしていたのだ。
話をホーバスヘッドコーチに戻せば、彼は最初に話題に上った2人について「背も小さいし……」という評価を口にしている。身長を評価基準の1つにされると、161センチの安間はどうしても見劣りしてしまう。リオ五輪を経験した吉田(165センチ)、町田(162センチ)、三好(167センチ)と比べても、わずかだが小さいし、そんな数少ない“小さくてもOK”のグループへ割って入るためには、彼女たちを脅かすほどの“武器”が必要となる。しかし現時点の安間は、それほどの突出した何かを見出せてはいない。むしろ、今の日本代表には欠かせない3ポイントシュートを課題に挙げるなど、課題のほうが山積している。それが今年度の日本代表候補に上がらなかった要因なのだろう。
それでもファイナルでJX-ENEOSサンフラワーズという“絶対女王”を前にして、堂々と自分を出そうとし、またチームメイトの力を引き出そうとした安間の、ある種の“迫力”に、この選手も代表争いに加わってくるのではないかと感じさせられた。
サイズのなさや、克服すべきプレー面の課題をすべてひっくるめたうえで、2020年の東京五輪に出場したいという思いはあるのかを尋ねると、安間は即座にこう返してきた。
「それはありますね。オリンピックはそう簡単にあるチャンスではないと思うし、さらに日本開催ということもあるので、ただWリーグでプレーするだけでなく、日本代表に選ばれて(五輪の)試合に出るという意識はあります」
マラソンに例えれば、吉田ら4人が先頭集団で、その4人を除く今年度の女子日本代表候補に選ばれたポイントガード陣が第2集団。女子ユニバーシアード日本代表候補に選ばれているとはいえ、安間は第3集団、いや、もしかしたら今はまだ最後尾にいるのかもしれない。そこから優勝争いに絡むのはけっして簡単なことではないが、マラソン実況よろしく、「おおっと、一気に追い上げてきた選手がいますねぇ……安間ですか……安間です!トヨタ自動車の安間が最後尾から一気にスパートをかけて、第2集団、先頭集団に迫る勢いです」となればおもしろい。
先頭集団のなかでも熾烈な争いはおこなわれるはずだが、それだけに終始していてはチームの飛躍的な進歩に欠ける。たとえ今は最後尾に位置していたとしても、先頭集団を脅かす猛追があれば日本代表はより活性化され、より世界と伍するチームへと進化していくはずだ。ファイナルのコートで鋭い目を光らせていた安間に、そんな“末脚”があると信じたい。
文・写真 三上 太