Wリーグは先週末(12月4日)の時点で18試合を戦い終え、平均26.9分出場し、10.2点、2.9アシスト。昨シーズン、常勝軍団JX-ENEOSサンフラワーズから1年のブランクを経て、トヨタ自動車アンテロープスへ移籍してきた大神雄子選手。大きな犠牲を払って海外へ挑戦し、様々な経験をしてきたからこそ、Wリーグの未来を良くするために苦言を呈してきた。
筆者もオリンピックに沸いたあの夏から2ヶ月しか経っていないにも関わらず、Wリーグが静かに開幕してしまったことに危機感を覚えていた。大神選手の意見に全て同意し、彼女の言葉を借りて現状を伝えたい。
Wリーグも見る場を増やさなければならない
2014年、中国女子プロリーグWCBAの山西フレームの一員として活躍し、優勝を飾った。自信に満ち溢れ、さらなる中国での活躍を希望していた矢先のオフシーズン、WCBAはアジア枠の撤廃を表明。こぞって中国にやって来るアメリカWNBA選手たちがライバルとなる外国人枠との争いには勝てず、契約は白紙となった。その後もヨーロッパなどへプレイグラウンドを求めたが、いずれも難航を極める。
海外がダメならば、日本に戻ってプレイすれば良い。誰もがそう思い、日本代表クラスの大神選手の活躍を目の前で見たいファンも多い。しかし、海外移籍以上に高いハードルがあるのがWリーグの登録方法である。
「今(2015年当時)、Wリーグの中では一律5月31日に登録締切という期限が決まっています。昨年の世界選手権は10月末〜11月にかけて行われ、一昨年のアジア選手権も11月に実施されており、国際大会は夏から秋にかけて開催されることが多いわけです。その中でリーグ登録が5月に締め切られると、例えば渡嘉敷(来夢/JX-ENEOSサンフラワーズ)選手のように世界選手権で良いパフォーマンスを発揮し、海外のチームからオファーをもらったとしても、その時点では登録が済んでいるWリーグでしかプレイできないという実態があると私は思っています。選手がバスケットを盛り上げるために海外に出たいという気持ちがあっても行きにくい環境だと感じています」
タスクフォースが日本のバスケ界を再建していた2015年2月末、女子選手を集めて意見交換会が実施された。どこにも所属できず、路頭に迷っていた大神選手も参加し、このように直談判をした。それに対し、当時の川淵三郎チェアマンは「僕は大神さんの意見に賛成。なんで半年間プレイできなくなるのか。今、大神さんが協会所属になってること自体、僕には理解できない」とした上で、他リーグと同じように「契約締切日を2回」にする提案をした。
あれから2年が経った今、2つあった男子リーグは劇的な変化を遂げ、ちょっとしたブームになっている。今夏、リオデジャネイロオリンピックでベスト8となり、感動を呼んだ女子日本代表だったが、Wリーグの状況が好転しているようには見えない。
「問題が山積みだった男子リーグがあっという間に変われた、WKBL(韓国女子プロリーグ)だって強化のためにあっという間に外国人選手を入れることだってできている。なぜ、Wリーグができないのかなと不思議に思います。スポナビライブでBリーグは中継されていますが、Wリーグはまったく放送されない。私自身、スポナビライブを見ていますが、ソフトボールも野球も見られて楽しい。Wリーグも見る場を増やさなければならない。しかも今年はオリンピックイヤーなのに、そこに着手していないのは、盛り上げる気が無いという認識しかない。言ったらキリがないですが…」
一つの質問をぶつければ、堰を切ったように答えが返ってくる。その全てが川淵チェアマン同様、筆者も『大神さんの意見に賛成』である。
移籍問題、外国籍選手問題、格差問題
Wリーグの選手プロフィールにある『プレイ歴』は、移籍の多い男子選手に比べると、その文字量は格段に少ない。今シーズン、Wリーグでプレイする選手の中で複数チームを渡り歩いたのは17人しかいない。その中には休廃部により移籍を余儀なくされた選手や、一度引退した後に1年以上空けて移籍した選手もいる。休廃部を除き、シーズンがつながる形で移籍できた選手を絞り込むと、たった5人だけだ。
「女子の場合、多くは18歳で進路を決めて、それを引退するまで同じチームで通すような体制になってしまっています。チームのスタイルは年々違い、監督も変わっていく中、選手はチームを選べない状況です。18歳の時に決めた後、そのまま居続けなければならない状況は普通であれば考えられません。転職したければ、それは自分で決めるのが普通の社会ですが、Wリーグの現状ではホールド感があり過ぎるのかなと思いますし、ここも一つの社会なわけだから、もうちょっと柔軟性があっても良いのではないでしょうか。本当に日本を強くしたいのであれば、ちゃんとした環境が必要ですし、選手自身もちゃんと言葉にするべき。選手側にも責任はあると思います」
これまで長く日本人選手の強化を理由に外国人選手登録を認めてこなかった。それ以前は、アメリカのバスケットボール殿堂入りしたアン・ドノバン(シャンソン化粧品)など今の中国WCBA同様に、日本にスター選手が集まっていた。2015年の意見交換会の席で渡嘉敷選手も、「日本にいる限り自分は身長が高いので、Wリーグと日本代表として世界を相手にする時はプレイスタイルやポジションも変わってきます」と話している。リオでオリンピックベスト8になった女子日本代表選手たちが、2020年へ向けたさらなる強化を担うリーグになるためにも、そろそろ鎖国を解き放つ時期ではないだろうか。
Wリーグの前半戦は上位チームvs下位チームの対戦となり、大差がつくゲームも目立つ。「下位チームと言われているが、それもリーグ戦での試合。その中でもしっかり勝ちきって連勝を続けられているというのは少なくとも自信になっている」とチームの成長には少なからず意味を為している。しかし、観客視点に立てば、「点差が開いた試合を誰が見に行くんですか?」と問題点はキリがない。
開幕前から大神選手がメディアに向かって発言したことで、WJBL斎藤聖美会長と会談する約束に至り、すでに先日実現したようだ。「その時に少しずつでもどうなっているかを聞いて、私から報告したいと思っています」と話しており、大神選手の公式facebookでの報告を楽しみにしたい。また、大神選手自身も広くいろんな方々からの発展的な意見を募っている。
文/写真・泉 誠一