本誌フリーペーパー版でルーキーシーズンを振り返り、尊敬する髙田真希選手への思いや、日本代表、ひいては2020年への渇望を口にした赤穂さくら。しかし彼女が口にしたのはそれだけではない。ここでは誌面の都合上、フリーペーパー版に掲載できなかった話を紹介しよう。
――デンソーアイリスというチームは、実際に入ってみてどうでしたか?
自分はデンソーアイリスの雰囲気が好きで、選んだところもあります。そこは今も変わらず、チームの雰囲気はすごくいいなと思っています。
――具体的に言うと?
先輩とも楽しく絡んだり、しゃべったりして、和気あいあいとしているところですね。ただ1年目は自分をすべて出せていなかったんです……緊張するところがあったので。でも今はいろんな先輩たちともしゃべれるようになってきました。
――そんな先輩たちのなかでも髙田選手の存在は大きい?
大きいですね。全部真似したいです。オフェンスに関しても、ディフェンスに関しても、本当にチームの柱だなって思うんです。コートにリツさん(髙田選手)がいるとすごく安心するんです。
――将来的には高田選手と、チームの2枚看板になれるようになりたい?
はい。それを目指してきたので。
――高校時代はJX-ENEOSサンフラワーズの間宮佑圭選手のプレイをよく見ていたと言っていましたよね? 彼女と同じチームを選ばなかったのは対戦してみたいという気持ちになったから?
はい。実際に進路を決めるとなったときにリツさんのプレイも見始めて、そこでリツさんみたいなプレイヤーになりたいと思ったんです。先ほど言ったチームの雰囲気もそうですが、リツさんがいるからデンソーを選んだところもあります。あとはJX-ENEOSを倒したいという思いもありましたね。
千葉・昭和学院高校時代もいわゆる“女王”の座に君臨するチームを追い続けてきた。結果としてその座に就くことはできなかったが、だからこそ、社会人になっても“女王”への挑戦する強い気持ちを保てているのだろう。
しかし、「将来的にはインサイドでも、アウトサイドからのドライブも、ジャンプシュートも決められる、リツさんみたいなプレイヤーになりたい」というさくらの言葉を聞いたとき、筆者の中で瞬発的にある疑問が浮上した。
――そうした向上心は昔からあったのですか? 高校時代は、失礼ながら同じチーム内に比較したり、見て学べる子がいなかったからか、あまりに絶対的すぎる印象でした。
正直なことを言えば、(妹の)ひまわりが入学してくるまではそういう意識は全然ありませんでした。バスケット自体も、こんなことを言うと高校の先生に叱られるかもしれないけど、つまらないという気持ちがあったんです。チームで練習をしていても、相手がいないというと失礼に当たるかもしれないけど、高校1年、2年のときは簡単なターンシュートだけでオフェンスが終わっていたんです。でもひまわりが入学してきて、ひまわりのプレイを見て、意識が変わりました。順番的にも1対1の練習を一緒にすることが多かったんですけど、今までどおりにやっていると止められるし、ディフェンスでも止めたと思ったところで、もう一歩踏み込んだりしてくるんです。そのときに「こういうプレイもあるんだ」と思って、いろいろ考えるようになりました。だから今のような向上心を持てるようになったのは、ひまわりのおかげと言っていいと思います。最後の1年だけでしたが、ひまわりと一緒にプレイできたことは自分にとって、本当に大きかったです。チーム練習が終わってからも、「こういうプレイ、どうやったらいいと思う?」って話しながら、一緒にいろんなプレイをやっていましたから。
――1年間、ライバルだったと?
いや、ライバルではありません。ひまわりもライバルとは思っていなかったと思います。ポジションが違いますから。でも当時の自分にとって、ひまわりはすごく大切な存在でした。なくてはならない存在というか、心の支えみたいな感じです。お互いがお互いを引き上げていく関係でしたね。
高校時代の赤穂さくらを取材したとき、彼女はこんな話をしてくれた。昭和学院中学時代にもひまわりとは1年間一緒にプレイしているのだが、そのころは「仲がよくなかった」と。それはどうやら幼いころの姉と妹の関係、つまり年長者(姉)の「上に立つ意識」みたいなものが、お互いの中に残っていたからだ。ひまわりも別の取材で「幼いころはお姉ちゃんが怖かった」と明かしている。
しかし姉は高校で1年生のときからスタメンに抜擢され、全国の猛者たちと交わっていく。妹もまた強豪校である中学で実力をつけ、姉とは異なる才能を見出されていく。それぞれがそれぞれの才能を磨いていったことで、さくらが高校3年、ひまわりが高校1年の1年間が、お互いを認め合い、高め合う貴重な1年になったのだ。さくらにとっては妹こそが自分の向上心に火を灯した存在だったわけだ。
高校3年になった妹のひまわりは今、卒業後の進路を模索しているころだろうか? さくらは「姉として、家族して話は聞きます」と言うが、詳細はむろん明かさない。
だが、どこへ進もうともこの姉妹はこれからもお互いを高め合いながら、それぞれの進む道で力を発揮するのだろう。何度も取材を重ねていると、2人の道の交わる点の1つが2020年であればいいな、と思ってしまう。
文/写真・三上 太 写真・泉 誠一