確かに住居から食事、練習環境、果ては遠征のチケットやホテルの手配に至るまで、多くをチーム(企業)に準備してもらい、選手はプレイだけに集中ができる。企業の業績によって廃部の憂き目を見るかもしれないという恐怖は常につきまとい、実際にそういう経験をした選手もいるが、概ねバックアップ体制はしっかりしている。
極論をいえば、リーグがどうだ、代表チームがどうだと彼女たちが考える必要など、“これまで”はなかったわけだ。
そんなときに意見交換会の名のもとに、川淵三郎というスポーツ界では知らない者はいないであろう大物と話す機会を得た。得たというより、大神の“アシスト”によってそのチャンスを作られたのだ。問題提議とまでいかなかったが、大勢のマスメディア、関係者の前で自分の思いの丈を語った意味は大きい。大神もそれが「きっかけでいい」と認める。
「意見交換会で言葉を発したこと自体が責任のある行為です。バスケット界を盛り上げたい、オリンピックに出たいと言うのであれば、次に何をしなければいけないのか、自然と行動に出さなければいけない。本気で未来のためを思うのであれば、問題に対して声を発しなければならないんです」
大神は現役選手たちにそう発破を掛けながら、一方でこうも言っている。
「とはいえ、今まで日本の部活動という文化の中で先生(監督)の言ったことを『はい』と聞いてきた経緯がある。その流れも手伝って、こうした問題に声を発することができないのかもしれない……」
ことはWリーグだけの問題ではない。だがオリンピックを目指し、日本のバスケット界をより発展させようと思うのであれば、「恵まれている」と言われる現状の維持だけでは進歩がない。時代は進化している。現状維持はいわば退化なのである。
何かを言ったところですぐには変わらない。しかし言わなければ、けっして変わることはない。「すぐに」と「けっして」では、同じ「変わらない」でも意味はまったく異なる。
まずは、よりよいリーグにするために、よりよい女子日本代表にするために何が必要なのかを少しずつ考えることだ。リーグの活動中、日本代表の活動中にノートの端にでも「こうしたらもっと動きやすくなるのに」と、ちょっとメモを取るのでもいい。もちろんゲーム中、およびその前後はバスケットに集中しながら、たとえば移動のとき、食事のとき、テレビを見る時間帯、そしてオフの日――時間はないようである。
考えに間違いなどはない。違ったと思えば、翌日から考え方を180度変えてもいい。まずは自分なりの女子バスケット界の進むべき道、理想の未来像を本気で考えてほしい。
大神の“アシスト”を生かすも殺すも受け手次第である。
文 三上太