「チームの目標としては東京オリンピックでメダルを獲ることです。もちろん簡単なことではないと思いますが、リオデジャネイロオリンピックで得た経験は、我々を大きく前進させたと思っています」
ヘッドコーチとしてのゴールを、昨夏の経験を踏まえて、自信を持って発言した後、彼はさらにこう続けた。
「ずっと夢見ていたことですけど、個人的な夢としては東京オリンピックの決勝戦でアメリカと対戦して、金メダルを獲ることです」
率直に言おう。その言葉にしびれた。
これまで、私が知る限りで、自らの夢を記者会見で語ったヘッドコーチを見たことがない。大言壮語してはならないという日本人の謙虚さ、ある種の美徳が、これまでの日本人監督・ヘッドコーチにはあったのかもしれない。
しかし彼はアメリカ人だ。女子日本代表として初めてとなる外国人ヘッドコーチは、だからこそそれができたのかもしれない。それでも指揮官自らがまっすぐな思いをぶつけてくることに、少なくとも好感を抱いた。むろん勝負師たるもの、腹に一物を抱えていて然るべきだ。たぶん彼にもそういう一面があるだろう。しかしそれを見せず、一方で自らのピュアな側面を実直に見せるところに、応援したいという気持ちを掻き立てられる。
さぁ、自らの夢を語れる指揮官のもと、日本のエースの座を射止めるのは誰だろう?
選手選考は彼がWリーグの戦いを終えた後に本格化するはずだが、現時点で「ベースはリオのメンバー」と言うから、エースの座も渡嘉敷来夢が一歩リードしていると推測する。
しかし彼はこうも言っている――若い選手も見てみたいね。
ならば、渡嘉敷からその座を奪ってやろう、そして「東京オリンピックは私のオリンピック」と大きな夢を語れる選手が出てくることに期待もしたい。それがまた女子日本代表をメダル獲得に押し上げる1つの大きな要素になるはずだ。
オリンピックが近づけば近づくほど、チーム内での争いは、好むと好まざるにかかわらず沈静化する。チーム内の切磋琢磨をチームワークに昇華させなければいけないからだ。日本のエースの座をかけた争いの期間は、オリンピックが開幕を迎える日々よりもずっと短い。
文・三上 太 写真・三上 太/安井 麻実