試合が始まる前にあいさつへ行くと、JX-ENEOSサンフラワーズのヘッドコーチ、トム・ホーバスはいつもやさしい笑顔で「こんにちは」と手を差し出してくれる。しかし選手をコートに送り出し、ベンチの前に立つと、その表情は一変する。女子バスケット界をリードするスーパースター軍団に対しても、一切の妥協を許さない。彼女たちの後を追う、経験の少ないベンチメンバーであっても容赦はしない。チームとして戦っている限り、主力であろうとなかろうと、約束事は徹して守らせる。それがホーバスヘッドコーチの流儀だ。
そのホーバスヘッドコーチが今年4月から女子日本代表のヘッドコーチに就任する。しかも“専任”である。昨秋に開幕したWリーグ2016-2017シーズンから、名実ともにJX-ENEOSを率いることになったホーバスヘッドコーチがわずか1年でその職を辞し、日本代表の指揮官として世界と戦う道を選んだのである。
「僕はいつも(JX-ENEOSの)選手たちに『毎日うまくなって。自分自身にチャレンジして』と言っています」
1990年に来日し、その後日本人女性と結婚、2人の子どもを儲けたホーバスヘッドコーチは日本語も流暢だ。
「僕にとってもJX-ENEOSで過ごした8年間はいいチャレンジだった。でも次のチャレンジは? と考えたときに、日本代表ならいいだろうと思ったんです。もちろん難しいよ。プレッシャーもたくさんあると思う。でも僕はチャレンジが好きなんです」
日本を「第二の故郷」と断言する彼のチャレンジャー精神は4月以降、2020年の東京オリンピックに向けられる。そしてメダル獲得という、女子バスケットボール日本代表がいまだかつて成し遂げたことのない大きな目標にも向けられる。それは壮大な“夢”といってもいい。
彼の人生は常に大きな夢とともにあった。
1967(昭和42)年1月にアメリカ・コロラド州に生まれると、中学生のときに「NBAでプレイしたい」という夢を持つ。ペンシルベニア州立大学を卒業し、ポルトガルで1年プレイした後、1990年から4シーズン、トヨタ自動車でプレイしている。そこで4年連続の得点王や、2年連続の3ポイント王に輝くと、1994年にわずか4か月という短い期間だが、NBAのアトランタ・ホークスと契約し、プレイしているのだ。His dream has come true!
「夢を大きく持たなければ、目標は達成することができません」
正式な就任は4月だが、1月23日に都内のホテルで行われた発表記者会見で発したこの言葉には、彼自身の生きざまが反映されているというわけだ。