「小学校まではお母さんが何でもやってくれた。そこから自立させないといけないから、荷物のこと、挨拶のこと、準備のこと……もう毎日が生活のことばっかりでしたね。だから、バスケットをちゃんと教えられたのかなって気はしますけど(笑)。他の人が指導できることももちろん指導しなければいけないんですけど、私の所に来てくれたんだから、じゃあ私は何を一番大事にしなければいけないのかって考えたんです。私は全然ダメダメだった中学時代から、高校に行って生活のことをずっと言われて人間が変われたということをバスケットに対して一番感謝してて、それで生活のことを重点的に指導できてるんだと思います」

日本バスケット界の歴史に残る名センターだった小磯HCの経歴を考えると、周囲からの期待は相当に高くなるに違いない。本人としても、チーム作りや選手育成に対する責任がより強くなりそうなものだ。しかし、今の小磯HCは選手時代に着ていた重い鎧を脱ぎ捨て、一指導者として純粋な心持ちで子どもたちと向き合っている。
「子どもたちも『小磯さんに教えてもらうなんて幸せだよね』って言われるのがプレッシャーになったり、『小磯さんに教えてもらうんだから強くならないといけない』というのがあるかもしれないですけど、責任って自分が勝手に思い込んでるもので、私はナショナルチームでプレーして、見られ方を気にしなきゃいけない世界から引退してちょっと気持ちが自由になれて、『もう何だっていいじゃん』っていう境地まで10年かけて下りていって、子どもたちを指導する責任よりも『この子たちのために何ができる? 何を伝えたいの?』ということを考えるようになったんです。子どもたちの人生でバスケットから何を学ぶのかって、そればっかりですね」
小磯HC自身、バスケットを通じて得た学びが今に生かされているのは、バスケット界が大きな進歩を遂げてきたことで、指導者という肩書を得たからこそでもある。小磯HCの現役時代は今ほどバスケットの市場規模が大きくなく、バスケットに携わろうとしても受け皿がなかったため、同世代で今も第一線でバスケットに関わっている人は限られている。今教えている子どもたちには、長くバスケットに触れていてほしいという願いもあるようだ。

「チームを作るのは勇気も要りましたけど、自分が蚊帳の外じゃなくて、Bリーグに指1本だけでも引っかけられてるのは本当に幸せだと思います。引退した人が成績云々じゃなくバスケが好きなら活躍できるという場がいろんなところに増えてるから、子どもたちも勝てなくてもバスケが好きだという気持ちがあるならばそれで食べていけるんだという世界になりつつあるんじゃないかと思いますね」











