篠崎澪と三好南穂の現役ラストを華々しく飾った前シーズンの成果を受け、2022-23シーズンもWリーグオールスターはファイナル終了後に開催。前シーズンと同様に、北川直美と田中真美子がオールスター前に引退を表明しており、最後には2人を送り出すセレモニーもあった。筆者はその光景を見ながら、「おそらく他にも、これが最後の舞台になる選手がいるのではないか」とひっそり識者を装っていたのだが、特にこれといった根拠もないただの勘もたまには当たるものだ。しかし、筆者が想像していたのは別の選手。そこに西岡里紗が含まれるなどと思っているはずがない。
そりゃそうだ。同シーズンの西岡の成績は、1試合平均16.3得点(リ―グ4位)、7.3リバウンド(8位)、1.23ブロック(6位)、フィールドゴール成功率61.94%(4位)、フリースロー成功率81.2%(9位)。得点・リバウンド・FG成功率はキャリアハイである。現在北海道日本ハムの監督を務めている新庄剛志も34歳で惜しまれながら引退したが、2割5分8厘、16本塁打、62打点といずれも個人タイトルを争うような数字ではなかった。それでも惜しまれるのだから(もっとも新庄の場合、稀代のエンターテイナーだったことが大きいとは思うが)、西岡のスタッツが引退する人のものでないことは明らかである。
本家でのベストシックスマン投票にあたっては、筆者はかなり迷った。といっても、それは2位以下の話。梅木千夏や渡部友里奈、高橋未来といった面々が拮抗する中、西岡は数字以外の部分も含めて突出していると感じられた。シーズン半ばに泉誠一氏が西岡を取材して記事にした際、別の選手待ちでその場に居合わせていた筆者はこっそり聞き耳を立て、ベンチスタートのメリットやマインドセットを語るその内容と口ぶりに、西岡の選手としての進化を感じ取っていたのだ。なるほど、これだけ思考の幅が広がればそりゃ活躍するよね、と。だからこそ、全盛期に差しかかってなんで引退やねんとなるのである。新庄はチームを日本一にして引退したぞ。
新庄ついでに唐突に豆知識を挟んでおくと、西岡の父も元プロ野球選手だ。ヤクルトのドラフト1位(翌年の1位が長嶋一茂である)で大いに期待された投手だったが、1軍登板は39試合にとどまった。アスリートとしては、西岡は父を超えたと言っていいだろう。だからといって、3x3で東京オリンピック代表にまで上り詰め、シックスマンとなってさらに一皮むけたこのタイミングでの引退がもったいないことには変わりない。選考会議でも、「まだできるだろ、このヤロー」とキレる選考委員まで現れる始末だ。
ちょうど今の時期は、3×3シーズンの真っ只中。渡部や藤岡麻菜美、山本麻衣といった忙しいはずの人もこの夏は3×3に取り組むことだし、たった2年前の夏の日を思い出し、今からでもどこかのチームに加わってみてはいただけないものか。それが無理なら、あとはもう吉田亜沙美パターンに期待するしかない。一度引退を撤回した吉田は、本家のベストシックスマン受賞を置き土産に改めて引退を実行し、そしてこの度戻ってきてくれた。その再現を夢見つつ、今は一旦「お疲れさまでした」と言っておくことにしよう。
文 吉川哲彦
写真 W LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。
※選手・関係者の所属は2022-23シーズンに準ずる。