2022-23シーズンのWリーグMVPに髙田真希(デンソー)が選ばれたことは、9年ぶりの受賞という点でも非常に価値が高い。女子スポーツのキャリア平均年数が短い中、トップリーグで10年以上プレーしているというだけで、そりゃもう立派なものである。
投票に際しては、チームがレギュラーシーズン1位だったことも髙田にとっては有利に働いたのだろう。かくいう筆者も1位票を髙田、2位票を馬瓜ステファニー、3位票を渡邉亜弥(三菱電機)に投じた。レギュラーシーズンの順位に従い、勝利への貢献度が最も高いと感じた選手を上位3チームからそれぞれ選んだ格好だ。
ただ、BBS AWARDはレギュラーシーズンだけが対象ではない。プレーオフでの髙田のパフォーマンスも十分なものだったが、ここはやはりトヨタ自動車がファイナルまで進んだことを評価すべく、筆者はステファニーを推した。選考会議では渡嘉敷来夢(ENEOS)の名前も挙がったが、ステファニーが最多得票であったことと、渡嘉敷がファイナルMVPを受賞していることを理由に、こちらではステファニーが選ばれることとなった次第だ。
そもそもレギュラーシーズンの結果も実に紙一重だった。トヨタ自動車は、レギュラーシーズン最終週の直接対決でデンソーに1つでも勝っていれば、1位でプレーオフに進んでいた。そうなれば本家のMVP投票にも多少なりとも影響はあったはずで、筆者もトヨタ自動車が1位ならステファニーに1位票を入れていただろう。筆者がチームの順位に従って投票したのも、MVPにふさわしい選手があまりにも多くて順番をつけるのが面倒くさ……難しかったからだ。今のWリーグは、上位チームの主軸を張る選手ともなると決定的な差が見当たらないのである。髙田、渡嘉敷、渡邉、町田瑠唯、赤穂ひまわりetc.……いったい誰を選べというのだ。
そんな猛者揃いの中でステファニーが選ばれたもう一つの理由が、日本人5人目のWNBA選手を目指してニューヨーク・リバティーのキャンプに参加したことだ。残念ながらロスターに残ることは叶わなかったが、その後スペインのMovistar Estudiantes(誰か読み方を教えてほしい)への入団が発表された。選考会議はその発表の前だったが、いずれにしてもまだ始まったばかりのチャレンジへのエールという意味も込めてステファニーにMVPを贈ろう、というのが選考会議で出た結論である。
考えてみれば、トヨタ自動車は長岡萌映子や三好南穂、河村美幸といった百戦錬磨の先輩たちが抜けた上、姉・エブリンがロングバケーションに突入。ステファニーは一気に大黒柱になった感があるが、堂々としたプレーで先輩たちと同様にファイナルまでたどり着いた。海外挑戦以外に他のMVP候補を上回ったものがあるとすれば、おそらくその点だ。だったら同じトヨタでも、この夏にZOOSの一員として3×3で世界を転戦する山本麻衣だっているじゃないかと言われるとぐうの音も出ないが、彼女は前シーズンのファイナルMVPを受賞しているということでなんとかご容赦願いたい。
ダブルオーバータイムにまでもつれた末に敗れたファイナルGAME3の試合後、ステファニーは「楽しむことができた」と言ってのけた。そのメンタリティーを持っている時点で、人生の勝者。ここでMVP云々を論じるのも野暮なことという気がしている。
文 吉川哲彦
写真 W LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。