2016-17シーズンから始まったWリーグのアーリーエントリー。当初は「来たるべき新シーズンにむけて、今はとにかくWリーグの空気を吸ってもらおう。あわよくば出場機会を与えよう」くらいの立ち位置かと思っていた。いや、たぶん、それはある意味で今も間違いではないと思うのだけど、突然変異はどこにもでもあるものだ。その1人がシャンソン化粧品シャンソンVマジックの𠮷田舞衣ではなかったか。
八雲学園高校から拓殖大学に進み、2020-21シーズン、アーリーエントリーでシャンソン化粧品に入団。いきなり6試合でスタメン出場を果たし、平均得点16点を上げる。3ポイントシュートは、2ポイントシュートよりも6本多い41本を放ち(1試合平均6.8本)、36.5%の確率で決めている。むろんそれだけが要因ではないのだけど、チームはしっかりプレーオフへ進んでいる。いや、アーリーエントリーにそこまでやられちゃダメでしょ、と思いつつ、彼女の才能を見出し、彼女もまたその期待に応えたところに李玉慈ヘッドコーチとシャンソン化粧品のチームメイト、そして𠮷田のすごさはあったように思える。
でも、まぁ、アーリーエントリーだし、相手チームもデータが少ないからなぁなどと思っていたら、名実ともにルーキーシーズンとなった2021-22シーズンでも全24試合に出場し、うち23試合でスタメンに名を連ねている。3ポイントシュートの試投数は162本(1試合平均6.75本)、成功率も33.3%と、アーリーエントリーのときから大きく落としていない。対戦チームも彼女のシュート力には警戒していたはずだが、それでもなお同じくらいの数字を残せたことは、彼女の実力が ── 今さら言うまでもないことだけど ── ホンモノだったということだろう。事実、その後に発表された女子日本代表候補にもその名を挙げられている。結果として最終ロスターには残らなかったものの、そこでの経験はWリーグのプレーオフ・セミファイナルまで勝ち上がる大きな力になり得たはずだ。プレーオフでの個人スタッツは、あるいは納得できるものではなかったかもしれないが、でもそれが “ルーキーらしさ” と言ってもいい。むしろアーリーエントリーを含めて2年目で2度のプレーオフを、しかも主力に近い立場で経験したことは、今後の大きな財産になるはず。
日本代表のYouTube映像で流れた、どこか自分を差し引いてしまうメンタリティを乗り越え、3ポイントシュートが武器である日本においても私がナンバーワン、と思えるようになったら、ちょっと手に負えなくなる気もする。もちろん対戦チームのコーチたちは今から対策を練っているだろうが。
本家Wリーグのルーキー・オブ・ザ・イヤーと丸被りで、「原則、本家とは違う選手を選びましょう」というのがBBS AWARDのスタンス。しかし原則には例外もある。例外の動きをしたときに素早く対応するのが「世界一のアジリティ」。当方も女子日本代表に倣って、彼女にBBS AWARD 2021-22のルーキー・オブ・ザ・イヤーを贈呈する。来シーズン以降、今後のWリーグの未来も託して。
文 三上太
写真 W LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。