富士通レッドウェーブに入団して11シーズン。ここまで変わらない選手も珍しい。もちろんスキルやフィジカルなどは年々グレードアップしている。しかし彼女が最も得意とするアシストについては、いつだって「決めてくれる選手がいるから」とフィニッシャーを称えるスタンスを崩さない。東京2020オリンピックの準決勝で、オリンピック史上最多となる1試合18本のアシストを決めても、5年連続6回目のアシスト王に輝いた2021-22シーズンを終えても、彼女の言葉は常に同じ。どういう育てられ方をしたら、こんなマインドになるのか。いつかご両親やご兄姉、若い頃の彼女を育ててきたコーチたちに聞いてみたい。
一方で、彼女が踏み切ったWNBAへの挑戦で ── 実際には十分互角に渡り合えているので、もはや挑戦という言葉は似つかわしくない気もするけど ── 「それを決めてくれていれば、アシストが付くのに」とヤキモキするシーンも少なくない。それでも彼女は淡々と次のプレーに入り、同じようにチャンスをうかがっている。それを見るとやはり「決めてくれる人がいてこそのアシストなんだな」と改めて気付かせてもらえる。ありがとう、ワシントン・ミスティックス。それでいて6月5日のシカゴ・スカイ戦ではWNBAで自身最多の9アシストを決めているのだから、シュートを決めてくれる選手がいれば、やはり彼女は輝きを増すんだよ、とつい画面に向かって毒づいてしまう。ごめんよ、ミスティックス。
さて、今回の女子MVPのノミネートに上がったのは彼女と、三好南穂と山本麻衣(トヨタ自動車アンテロープス)。でもいつのまにか三好と山本の名は消え、ほぼ彼女一択に。
考えてみれば、それは仕方のないこととも思える。東京2020オリンピックで1試合のアシスト記録を塗り替え、チームとしても銀メダルも獲得したことで、2021-22シーズンのWリーグは彼女見たさに多くのファンが会場に足を運んでいた。長引くコロナ禍で出待ちは原則禁止だと呼びかけていたのだが、それでもチームバスが会場を離れようとすると、その導線には例年以上に多くのファンがいるなんてこともあった。リーグのZOOM会見も、例年であればチームからバランスよく選手が選ばれるのだが、2021-22シーズンはほぼ毎回彼女にご指名が入る。それだけ彼女の言葉を聞きたい記者も多かったのだろう。つまりWリーグの2021-22シーズンの中心は、やや穿った見方かもしれないが、やはり彼女だったというわけだ。
ただ当初のそれはオリンピック効果によるものだったはずだ。それがシーズン終盤の3月、彼女がWNBAに行くことが決まって、注目の拍車がさらにかかった。チームも6年ぶりにWリーグ・ファイナルへ進出。シーズンの最後まで彼女のプレーが見られるとあって(むろん対戦相手のトヨタ自動車の人気もあって)、初戦は5855人、2戦目はそれを大幅に超す7151人のファンが観戦に訪れていた。ただトヨタ自動車の関係者およびファンには申し訳ないけれども、ぱっと見、あくまでも主観的には富士通ファンのほうが多かったようにも思える。それもこれも彼女の存在がとても大きかったはずだ。
というわけで、BBS AWARD 2021-22のWリーグMVPは町田瑠唯に決定! WNBAで揉まれ、さらにステップアップをしてもらって、史上初のBBS AWARD 2年連続MVPを狙いましょう! まぁ、そんなことを狙わないからこそ、町田瑠唯は町田瑠唯たりえるんだけどね。
文 三上太
写真 W LEAGUE
「Basketball Spirits AWARD(BBS AWARD)」は、対象シーズンのバスケットボールシーンを振り返り、バスケットボールスピリッツ編集部とライター陣がまったくの私見と独断、その場のノリと勢いで選出し、表彰しています。選出に当たっては「受賞者が他部門と被らない」ことがルール。できるだけたくさんの選手を表彰してあげたいからなのですが、まあガチガチの賞ではないので肩の力を抜いて「今年、この選手は輝いてたよね」くらいの気持ちで見守ってください。