心に響く言葉というのは、それを発する人の魂の叫びなんだと思う。
「みなさん、お待たせしました。ようやく歴史を変えました!」
文字にしてみると他愛もない、陳腐にさえ思える言葉だが、女子バスケットのWリーグは12年間、ENEOSサンフラワーズが頂点に君臨し続けていた。その歴史を、2020-2021シーズン、トヨタ自動車アンテロープスが変えることに成功したのである。
上記の言葉を発したのはトヨタ自動車の馬瓜エブリン。
ファイナル第2戦こそ10得点・6リバウンドに終わったが、初戦は19得点・18リバウンドのダブルダブルを達成して、チームに勢いをもたらした。弊サイトが彼女を女子のMVPに挙げたのは、そうしたスタッツもさることながら、魂の叫びを臆することなく、しかもとびっきり素敵な笑顔で発し、見ている人をも明るくすることができたからだ。新型コロナウイルスの影響で閉塞感が漂う今の日本にあって、彼女の笑顔は、Wリーグの歴史を変えたこと以上に大きな力を持っていたように思う。
とはいえ、彼女はけっして常に天真爛漫、明るいだけの選手ではない。むしろ内に籠もってしまうようなネガティブな面も持ち合わせている。拙コラム『バスケ徒然草』の第9段でも紹介したが、シーズンが始まる半年くらい前、彼女は失意のどん底にいた。女子日本代表として、開催国枠での出場が決まっているとはいえ、東京オリンピックの世界最終予選を戦った彼女はまったく振るわなかった。
正直に言えば、あのとき「エブリンは今シーズンをまともに戦えるのだろうか?」と本気で心配していた。それくらい沈み込んでいた。彼女が中学2年生のときから取材をさせてもらっているが、あそこまで沈んだ彼女を見たことはなかったからだ。
しかしトヨタ自動車アンテロープスというチームは、そんな彼女さえも受け入れる大きな器を持っていた。だからこそ馬瓜はカムバックできたのだと思う。
失意の底から這い上がってきた馬瓜は強かった。むろんすべての試合で好成績を残せたわけではないが、自分の居場所を見つけ、そこで自分の持ちうる力をすべて出すことで、チームに貢献したのである。持ちうる力のなかには、彼女の持つ発信力もある。
「コート内外にかかわらず、インパクトがありましたよね」
これが弊サイトの馬瓜評である。
表に出れば、大変なこともあったはずだ。プレーだけに専念すれば、あるいは楽だったのかもしれない。しかし彼女は表に出る決断をして、チームを引っ張った。そして歴史を変えたのである。
今シーズンオフ、馬瓜はいったん自由交渉リストにその名を載せながら、トヨタ自動車での再契約を発表した。チームメイトとともに変えた歴史をどう紡ぐのか。2年連続で弊サイトMVPになった選手は、男子を通じてもいない。もしこれを読んだら、ぜひそれにチャレンジしてほしい。もちろん評価基準は上がる。プレーと発信力、何より笑顔にさらなる磨きをかける必要がある。そんな魂を持つ馬瓜に来シーズンも会いたい。
文 三上太
写真 W LEAGUE