念願のメインコートに立ち、武器であるディフェンスでロースコアに持ち込み、最後の最後まで競り合った。だが、最終スコアは55-59。帝京長岡に敗れた飛龍の冬はベスト8で終了した。
「あと1つ、リバウンドだったり、ルーズボールだったり、あと1つのプレーが足りませんでした」(飛龍・原田裕作コーチ)。
残り2分で55-55の同点、どちらに転ぶかわからないクロスゲームだっただけに、敗戦の弁にも悔しさが滲む。「正直、力は帝京さんが上だと思っていました。ただ同じ高校生である以上、戦えない相手ではない。選手たちは全力を尽くしてくれたと思います」。飛龍にとって不運だったのは、リバウンドの要である#12杉山裕介が前半のケガでベンチに下がったこと。
「リバウンドだけでなく、彼がいるとうちのオフェンスのオプションが増えるんです。その意味でも彼を欠いたことは痛手だった。でも、繰り返すようですが、選手たちは全力を尽くしてくれました。敗れたのはコーチとして私のアイデア、戦うための準備が足りなかったということです」
今年34歳の原田コーチは福岡第一高校から東海大と強豪校でプレーした経歴を持つ。大学3年次に関東大学リーグ1部に昇格し、4年次にはインカレ優勝も経験したが、卒業と同時に現役を引退し指導者を志してアメリカに渡った。「以前、大学で遠征したこともあるCSULA(カルフォルニア州立大学ロサンゼルス校)にアシスタントコーチ兼マネジャーでお世話になりました。もちろん無給です。ここで2年間、一からコーチングの勉強をさせてもらいました」
CSULAはNCAAディビジョン2の大学だが、そこからNBAを目指す選手は少なくないという。
「選手個々のハングリー精神がものすごいんです。それに応えるためにコーチングスタッフ陣は努力を惜しまない。試合の前にとにかく入念な準備をするんですね。試合の前から戦いは始まっているんだということとその大切さを教えられました」
帰国後はプロチーム、レノヴァ鹿児島(現鹿児島レブナイズ)のアシスタントコーチを2年務め、その後飛龍のコーチに就任して8年目を迎える。
「大学、プロ、高校とカテゴリーは違いますが、それぞれに醍醐味はあります。でも、やっぱり高校は楽しいかな(笑)。子どもたちは3年間で驚くほど成長するんですよ。それを見られるのは何よりうれしいことです。応援に駆け付けてくれた卒業生を見て、ああ人間的にも成長してるなあと感じるとき、それも幸せですね。こうした喜びは高校の指導者ならではと思います」
今年のチームの中で格段の成長を見せたのは3年生たちだという。
「インターハイで市立船橋、桜丘を連破し、ベスト8入りを果たした自信が意識を変えたんじゃないでしょうか。練習に取り組む姿勢がガラッと変わりました。試合中もそれまでならあわてていた場面でも自分たちが声を出して打開するようになった。インターハイ後、自力でレギュラーを勝ち取った3年生が3人もいるんですよ。今年のチームをここまで引っ張ってくれたのは間違いなく3年生たちです」
際立った長身選手はいない。ポテンシャルの高い留学生がいるわけでもない。
「全国レベルで見たら、うちの選手たちは能力もキャリアも劣ります。だから、脚力、フィジカルコンタクトの強化は徹底しました。全員がボールを扱えるようにするのも課題の1つでした。ボールを扱えるようになるとプレーのズレを作れるようになる。だから、うちの選手は1対1には自信を持っています。そういう練習ばかりしてきましたから(笑)。小さくてもハードなディフェンスと1対1で勝負できるチーム、それだけは貫こうとみんなで頑張ってきたつもりです」
大学2年生のとき、優秀な新人たちがこぞって入学してきた。竹内譲次(アルバルク東京)、石崎巧(琉球ゴールデンキングス)、内海慎吾(京都ハンナリーズ)といったいわゆるゴールデン世代の選手たちだ。「実力で勝る彼らを見たとき、敵わないなと思ったし、これで自分は試合に出られなくなるのかなとも思いました。だけど、彼らは揃ってものすごい努力家だった。それを見たら認めざるを得ないですよね。そのときに思ったんです。自分の能力が低いことを言い訳にしてはだめだと。能力で劣っているのなら、あいつら以上に努力しなきゃいけないと」。思えば、コーチとなった今も根底に同じ思いがある。個々の能力が劣るなら2倍努力するチームになろう。互いの足りなさをそれぞれの努力で補えるチームになろう。それが原田のチーム作りの原点だ。
「ベスト4には進めませんでしたが、念願のメインコートには立てました。この経験はまた1つの財産になると思います。うちみたいな小さなチームでも戦えるんだと示せたこと、それが全国の同じようなチームを勇気づけることになったらいいなと、そうだったらうれしいなと思います」
東海大の1つ上の先輩には入野貴幸(東海大諏訪高校)、稲葉弘法(つくば秀英高校)、原田政和(東海大相模高校)といった若き指導者が揃う。名門福岡大附属大濠高校を率いる片峯聡太、台頭著しい北陸学院高校を指揮する濱屋史篤もまた次代を担うコーチたちだ。
「皆さんからは沢山の刺激をもらっています。励みにもなっています。自分はまだまだ若輩者ですが、負けないように頑張っていかないとなりません」
飛龍のコーチになって初めて体験したウインターカップのメインコート。新しいチームの新しい選手たちをまたそのコートに必ず連れてきたい。そのときはチームも、そしてコーチの自分もひと回り強い飛龍になってベスト4の壁を打ち破るつもりだ。
文・松原貴実 写真・吉田宗彦