決勝戦を戦ったそれぞれのリーダー
福岡第一#4重冨周希 #5重冨友希/東山#4岡田侑大
7日間に渡るウインターカップ最後の試合は、29日の男子決勝戦。今年の男子は混戦だという声が聞かれる中、勝ち上がってきたのは夏(インターハイ)の決勝でも顔を合わせた福岡第一と東山だった。結果から言ってしまうと、11年ぶりに栄えある優勝に輝いたのは福岡第一。インターハイで逆転負けの涙を流した東山は二桁ビハインドから粘り、78-81と追い上げたがあと一歩及ばなかった。
福岡第一を牽引するのはキャプテンの重冨周希と双子の兄である重冨友希だ。『超高速ガード』と呼ばれるスピードは言うに及ばず、決勝戦では周希が3本、友希が2本『欲しいところ』で3ポイントシュートを沈め東山を苦しめた。もちろん鋭いドライブは健在、ディフェンスの寄りの速さ、時間を読みながらコントロールする冷静さも併せ持ち、「あの2人に関しては1+1が3にも4にもなる」と評した井手口孝コーチの言葉を見事証明してみせた。
対する東山のキャプテンは「今大会ナンバー1」の呼び声も高い岡田侑人。187cmの身長で内外に安定した発揮する不動のエースだ。当然、対戦するチームは『岡田潰し』の策を講じてくる。福岡第一もまた岡田にボールが渡った瞬間2人、3人がかりで守りに入った。
「福岡第一のディフェンスの寄りは早くてあわてることもあった。ゴール下での入れるべきシュートを落としてしまったり、今日の負けは自分のせいです」(岡田)
だが、一気に勝負を決めたい福岡第一に食らいつき、26得点、6アシストをマークした。何より光ったのは最後まで貫いたあきらめないリーダーとしての姿勢だったように思う。
リーダーたちが残したもの
北陸学院#4小室悠太郎
創部4年目のチームに『ウインターカップ3位』という歴史を刻んだ北陸学院は夏が終わるとキャプテンが2年生に変わる。「3年生に頼っているようではウインターカップは戦えない」という濱屋史篤コーチの考えによるもので、現在のキャプテンは2年生の清水宏記だ。とはいえ、やはり3年生は頼りになる。
夏までキャプテンを務めた小室悠太郎はチームで1番の高さ(192cm)と確率の良い3ポイントシュートを武器にチームを支え続けた。小学生のころはラグビーをやっていたが、中学にはラグビー部がなかったためバスケット部に入った。「でも、もともとラグビーはあまり好きではなくて、バスケットの方がずっと楽しかったです」と笑う。「入ったころは3ポイントはおろかシュートが全然入らず、毎日練習させました。今の小室のシュートは努力の賜物です。努力家でまじめなんです」と、濱屋コーチ。小室のまじめさはインタビューに答えるていねいな言葉からも伝わってくる。
たとえば、どのような気持ちでこの大会に臨んだか?という質問に対して「うちのチームは身長がないので、運動量というのが必然的に必要となってきます。そこでチームの相互理解を深めてプレーの精度を高めることを心がけました。プレー1つひとつの正確性を求めることでそれぞれの成功率が上がっていったことがうちの強みになったと思います」
得意とする3ポイントシュートについては「高校に入ってからコーチに3ポイントの練習をさせてもらっていたことが成果として表れました。こうした大舞台で最後に決められたのは人生の大きな財産になったと思います」
どの質問にも淀みなくなく答えて、それでいてどこか朴訥した雰囲気も漂う。相手の目を見て自分の言葉で真剣に答える姿に、努力した3年間が垣間見えるような気がした。そんな小室の後ろで2年生エース大倉颯太が語った言葉が印象的だ。「この大会では3年生の意地を見ました。すごくいいものを見せてもらったと思います。みんなカッコよかった。来年は僕らの番です」――
育英 #4藤本巧太
「まじめ」という言葉で思い出したのは、育英のキャプテン藤本巧太だ。北陸に敗れた3回戦で育英は引き離されても追いつく、また離されても追いつく粘り強いバスケットを見せつけたが、その『あきらめないバスケット』を演出したのがこの藤本だと言える。
悔やまれるのは10点のビハインドから同点に持ち込んだ第4クォーター。
「そこから点が伸びませんでした。自分のゲームプランとしては当たっている濱田(裕太郎)にボールを集めてどんどん打たせ、最後は自分がドライブしてシュート、あるいは濱田に合わせてパスを出すというもので、それはまあまあできていたと思います。ただ、最後はやはり北陸の高さが上回ったというか、中でファウルを誘うことも考えたのですが、相手にうまくかわされて思うような展開になりませんでした」
85-86。その差はわずか1点。ゲーム終了後は悔し涙があふれたが、取材陣に囲まれるころにはその涙も乾いていた。
「泣くだけ泣いたので今はすっきりしています。自分たちは全力で戦って育英らしさは全部出せたと思うので悔いはありません」
このチームが大好きだと言う。
「普段は明るくて、みんなおもしろいんですけど、体育館に入った瞬間バスケットモードに切り替わる。なんていうかきびきびした勝負の顔になるんです。そういう雰囲気がすごく好きで、このチームでバスケットをやれて本当によかったです」
その言葉を裏付けるように沼波望コーチは言う。
「バスケットのことになると選手たちの目が変わるんです。3年生を中心に『自分たちで考えよう』というテーマを持ってやってきて、お互いの個性を引き出せるいいチームになりました」
北陸戦の敗因を尋ねると、間髪入れずに「僕です。反省が必要なのも僕ですね」選手たちは120%の力を出してくれたと言う。
「何より見ていて楽しそうにバスケットをやっていることがうれしかったです。率いてくれた3年生、特にキャプテンの藤本には感謝しています。おまえらがいなくなっちゃうと淋しいよと伝えたいですね」
際立つ長身選手も留学生もスーパースターもいないが、こつこつと泥臭く、粘り強いバスケットで勝負する。その育英バスケットを率いた藤本は卒業後は体育大学に進み教師を目指すと聞いた。その先にはバスケットの指導者になるという夢がある。いい先生になりそうだねと声をかけると「ありがとうございます。いい先生になりたいです」と、うれしそうに笑った。
文・松原 貴実 写真・安井 麻実