だが、そのショックは悪い意味ではない。「なんて言うか、これまで自分は補聴器を付けてバスケットをしてきたけど、やっぱり支障を感じることはあったし、今もあるんですよね。そういうのは周りの人にはわからないことだから、悩むのは自分だけだと思っていました。けど、デフバスでは全員が自分と同じように(聴覚に)障害を持っています。ここではそれが普通。自分より重度の選手も普通にバスケットをしてるんです。みんな、すごいなあと思いました。なんか、ものすごく刺激を受けた気がします」
とは言え、補聴器を外して立つコートではコミュニケーションの取り方からして違ってくる。目を見る、指をさす、体の動きで伝える…。「そうですね。デフバスではよりコミュニケーション能力が求められます。最初のころは戸惑うこともありましたが、だんだん慣れてきました。今、自分はとてもいい経験をしていると思います」
そんな津屋を「まじめで練習熱心」と評するのはアシスタントコーチを務める濱田佳祐さんだ。「チームにいい影響を与えてくれていますね。もともと持っているポテンシャルが高く、力が抜きん出ているのは確か。本番ではエースである彼の力を存分に生かす戦いができたらと思っています」。同じ障害者スポーツであってもパラリンピックの種目でもある車椅子バスケットに比べて認知度が格段に低いと言われるデフバスケット。その中で、大学のトッププレーヤーでありながら“健常„“障害„の垣根を越えた津屋の存在はやはり目を引く。「希望」と呼んだデフバスの仲間、「誇り」と讃えた大学のチームメイト。おそらく本人は「いえいえ、そんな大げさな」と照れるだろうが、担った役割の重さはわかっているつもりだ。「もっと強くなって、もっとデフバスを広めたい」――携わる人たちの切なる願いは、また、津屋自身の願いでもある。
そして、津屋が走るもう1つのコート。世界選手権が終わって帰国した先には東海大の『地獄の夏合宿』が待っている。同級生エースの西田優大、スーパールーキーの呼び声も高い大倉颯太などチームには競うべき有力選手は少なくないが、それこそが自分が望む環境だ。補聴器を外して挑む夏と、そこから得たものを力にさらなる高みを目指す夏。「大変な夏になりそうだね」と声をかけると、「大変だけど負けたくありません。負けたくないから頑張ります」と笑顔で答えた。2つのボールを追いかける20歳の夏は、まっすぐで、まぶしい。
文・松原貴実 写真・安井麻実