筑波大が圧巻の強さを見せつけた決勝戦だった。ディオップ・マムシェッハイブラヒマ(210cm)の高さを柱に粘り強いバスケットで勝ち上がってきた白鷗大を相手に115-57。記憶を遡ってもトーナメント決勝戦でこれほどの大差がついた試合は思い浮かばない。
ルーキーシーズンから主力としてチームを牽引した#6馬場雄大、#17杉浦佑成が最上級生となった今年は下馬評でも『頭1つ図抜けた強さ』と言われていたが、その中でも大会通して光ったのは躍動する下級生たちの姿だ。決勝戦では出だしの連続得点でチームを波に乗せた#14波多智也(3年)、準決勝の日本体育大戦で33得点をマークした#11増田啓介(2年)、#88牧隼人(2年)はプレーに安定感が増し、センター#65玉木祥護(3年)は持ち前の身体能力をいかんなく発揮した。今大会筑波大が見せつけたのは一段と増した層の厚さ、『馬場と杉浦だけではない』チーム力だったと言えるだろう。
それぞれが自分の役割を全うできた大会(#6馬場雄大)
大学界のみならず、次代の日本を背負う存在として注目を集める馬場雄大は日本代表候補メンバーとしてチームを離れる時間が長かった。
「この大会前は(自分が)代表合宿でやってきたことを披露したいと思っていたんですが、やっぱり代表は代表、大学は大学と違うところがあって意気込んでいた分、空回りしてしまうところがありました。けど、それを切り替えて大学での自分の役割を全うできたのはよかったです。
役割を全うするという意味では下級生たちが本当に良く頑張ってくれました。これまでは自分だったり(杉浦)佑成だったりヤス(青木保憲キャプテン)だったりがチームを引っ張っていくイメージがありましたが、この大会ではそれよりも増田をはじめ下級生たちの頑張りが光りました。筑波の下級生、活躍してるなあと思った人、多かったんじゃないでしょうか。いいことです(笑)。
正直、柱になってくれていた去年の4年生たちが抜けた後、どうなることかと不安でしたが、その穴を埋める力が育ってきていることがうれしいし、頼もしいです。でも、まだまだですね。
僕たちは1つずつ勝ち上がっていくトーナメントは強いんですが、問題はリーグ戦です。集中力を切らさずいかに長丁場を戦い抜けるかが今年の課題ですね。現状に満足することなく、戦いながらさらに成長していけるよう頑張ります。個人的には最上級生ということで、チームが良い雰囲気になることを考えて、たとえば自分の調子がどんなに悪くてもそれを出さないで(チームを)盛り上げる努力をしていくつもりです」
大会前1週間の練習は危機感を持って臨んだ(吉田健司監督)
見る者が『圧巻の強さ』を感じたチームにもかかわらず、大会間近まで吉田監督は「このままでは勝てない」という危機勘を持っていたという。何人もの選手を日本代表や学生代表に送り出していることで、全員揃っての練習時間が極めて短かったのがその理由だ。
「全員が集まっての練習がなかなかできなくて、新チームとしてそれぞれがどこまでやれるのか不安はありました。事実4月に行った練習ゲームでも状態は良くなかったし、選手には『このままじゃ負けるよ』と言っていたので、みんな危機感は持っていたんじゃないでしょうか。
でも、結果的にはその“危機感„がよかったように思います。危機感が集中力を生み、大会前1週間の練習はかなり濃度の濃いものになりました。おかげで優勝を勝ち取れたわけですが、まだ春の段階ですからね。どのチームもまだ手探りといったところがあります。
また、春の大会というのは、今までそれほどマークしていなかった下級生が思わぬ力を発揮して、それにうまく対応できなかったチームが敗れることもある。そこで成績が決まっちゃうことがあるんですよね。だけど、秋になると、やっぱり勝つのは3、4年生がきっちり仕事をするチームなんです。そういう意味では3、4年生が柱となるようなチーム作りをもう一度しっかりやっていかなければならないと思います。
うちの場合はガードの部分が手薄だと感じているので、ガード力を上げることは1つの課題ですし、逆にそこを補うようなものを2番以下で作っていく必要もあると考えています。エースである杉浦については彼の将来も考えて、できれば3番で使いたいと思っているので、この大会では玉木や森下(魁)をメインで使うことを意識しました。そういったことも含め戦術的に変更しなきゃならない部分もこれからいろいろ出てくると思います。
決勝戦では大差がついたことで『筑波は強い』という印象を持った人も多いかもしれませんが、あくまでそれはこのトーナメントの結果です。チーム一丸となって決勝まで勝ち上がってきた白鷗大は立派でしたし、準々決勝で対戦した大東文化大には強さを感じました。柱となるモッチ(ラミン)のファウルトラブルがなければまた違う展開になっていたかもしれません。その他にもこれから力をつけてくるだろうと思われるチームはいくつもありますから、当然、我々もさらに上を目指さなければなりません。春を制したことはもちろんうれしいですが、連続3冠王、インカレ4連覇を狙う本当の勝負はここから始まると思っています」
印象に残った白鷗大、日体大の躍進
今大会、大きな躍進を見せたチームとして挙げられるのは準優勝の白鷗大と3位の日本体育大だろう。現在関東2部リーグに所属する日体大は、先に行われた筑波大との定期戦で、敗れたとはいえ1点差の白熱戦を演じており、東海大を破っての3位入賞はその力がフロックでないことを証明したとも言える。しばらく低迷が続いたチームの復活の一歩を感じる快進撃だった。
また、吉田監督(筑波大)が「立派だった」と称えた白鷗大は昨年のトーナメント出場を棄権したため、今大会は1回戦からの戦いを余儀なくされた。慶應大、明治大、拓殖大、東海大など古豪、強豪との7試合を勝ち抜いて果たした決勝進出。
「うちのアドバンテージは高さと、相手のディフェンスを先読みする力」と語る落合嘉郎コーチは「70点台の勝負」を目指して臨んだが、結果は予想をはるかに上回る大差となった。ここにきて疲れから足が動かなくなった選手たちにもどかしさも感じたが「とにかく相手が強かった。自分たちの強みが発揮できなかったというより、自分たちのアドバンテージを忘れてしまうほど圧倒されてしまいました」と、振り返った。自身の采配ついても「もう少し早目にタイムアウトを取ってやっていれば、選手交代のタイミングをもう少し早くしていれば」といった思いが胸をよぎる。しかし、それも含めてすべてが貴重な経験になったことは間違いない。一息ついた後、落合コーチの顔に浮かんだのはやりきった感が漂うさわやかな笑顔だった。
「決勝戦もそうですが、それまでの戦いもすべてが今後の糧になりました。何より準優勝できたことはチームのプライドになると思います。そのプライドを持ってこの1年をまた頑張っていくつもりです」
関東大学バスケットボール連盟
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文・松原貴実 写真・安井麻実