「全国は楽しくて、見ているだけでも自分ではできないようなプレーも発見でき、本当に良い経験になりました」金沢那智
秋田県の花輪高校出身、「県大会では1回戦負け」だった吉田同様、青森中央学院大学の全員にとって、これがバスケ人生はじめての全国大会である。未経験者たちが最高峰の舞台を目指すようになったのは、その環境もひとつの理由だった。吉田が2年生だった2年前、先輩たちが引退すると最上級生になってしまった。今年の3・4年生がこの2年間チームを引っ張り、試合経験を積んできたことが大きい。
6チームで争われる東北1部リーグからインカレに出場できるのは3チーム。50%の確率に懸けるとともに、「インカレで勝てるチームを目指そう」と結束を高める。しかし、その過程を知る者は誰もいない。学生コーチを中心に、最初に取り組んだのは「ディフェンス中心のメニューとチームルールを徹底すること」だったと吉田は言う。
「今までは自由にオフェンスをしていましたが、やっぱりそれでは東北リーグでもなかなか勝てなかったです。そこで、チームルールとなる決まりごとをしっかりと決め、それを全員で遂行すること。佐藤(芳正)監督がいつも言っているのは、自分たちより強い相手でも常に挑戦する。その気持ちで取り組んできたことが実を結んだのかな、と思います」
センターの吉田は東北のリバウンド王。このインカレでも2試合で21本獲得。目標とする勝利にこそ届かなかったが役割を全うし、持てる力は存分に発揮できた。金沢ら残る選手たちにとっては、チームを上向かせるための課題が明確になった。
「チーム内ではお互いに気を遣ってしまっているのか分からないですが、ライバル関係よりも上下関係が練習でも見えてしまっています。そのせいでディフェンスがハードにできていない部分もありました。でも今回、その強度を感じたからこそ、今までの練習のようなディフェンス強度では、やっぱり勝つのは困難だとみんなが感じ取ったと思います。まずはディフェンスを中心に、もっとハードにできるようにして、来年また全国に戻ってきたときにミスやターンオーバーをなくせるように、練習から取り組んでいきたいです」
今後もインカレで勝利する目標は変わることなく切磋琢磨し、そのためにも「東北リーグではまだ3位であり、自分たちが望んでいる結果ではないです。来年はインカレの舞台で経験したことをチームに持ち帰って、それをしっかりと練習でも活かして、来年は東北リーグを優勝してインカレに戻ってきたいです」と力を込める金沢キャプテン率いる新チームが始動した。
「全国は楽しくて、見ているだけでも自分ではできないようなプレーも発見でき、本当に良い経験になりました」と金沢は多くの土産を持ち帰ることができた。楽しさを原動力に、青森中央学院大学の歴史もまた動き出した。
文・写真 泉誠一