コート上もベンチメンバーも「ディフェンスから」と声をかけ合い、原点に戻る。「第3クォーターにはディフェンスから速攻を出す良い場面が何本かありました。このチームは個々の力では勝てないと思っています。速攻を出して走りたいので、そのためにももっとディフェンスを徹底していかなければいけないです」と山田は手応えと課題の両方を得る機会となった。良い場面では6点差まで詰めることができたが、最後は疲れも出たのか、ディフェンスが少し緩んでしまったことでふたたび二桁点差に開かれてしまう。結果は62-74の12点差で敗れ、初戦を落とした。一方で、山田は31点をマークし、大活躍の全国デビュー戦となった。
宇田康利監督のコーチングフィロソフィー「やらされてうまくなることは、まずない」
三好高校出身の山田にとって、全国大会はこれがはじめてであり、「中学校の頃から目標にし、ずっと努力してきたので、新人インカレに出場が決まったときはうれしかったです。でも、これは1〜2年生だけの新人戦なので、本番のインカレ出場へ向けて、これからも日々努力していかなければならないです」と喜びもまだ半分。188cmの宇田監督よりも小さい選手たちばかりの岡山商科大学のコンセプトは、「コート上では常に100%の力を出し切ること。オフェンスではボールと人を動かしながら、常に動きを作っていくので選手たちはしんどいとは思います。ディフェンスもチームで動き回ることに取り組んではいますが、なかなかもどかしい思いをしながら一歩一歩進んでいます」というのが現状である。
山田に、宇田監督はどんな人かとうかがえば、「監督がどうこうというよりも、選手たち自身で練習や試合していくことをメインとしています。宇田さんはサブみたいな感じでついてくれています」と答えが返ってきた。もしかすると、指導者として認められていないのかと一瞬、驚いてしまった。しかし、その後に「たぶん、それが宇田さんの指導方針なのだと思います」と続き、安堵する。あらためて、宇田監督自身にそのコーチングフィロソフィーをうかがった。
「監督にやらされてうまくなることは、まずないと考えています。選手たち自身で考えてプレーした方が、私が指示してプレーするより何倍も経験になり、うまくいけば自信にもつながります。もう私はコートに立つことができる立場ではないので、実際にプレーをするのは君たちだよ、とは常々言っています。自分が経験して良かった部分は、選手たちに余すことなく伝えようと思って指導しています。でも、私の経験をもとに伝えても彼ら自身が経験していない分、言われただけではイメージできない。そのギャップを埋めていくことが難しいです。指導する上では、やっぱりバスケを楽しむことが根本にあります。大学の4年間で成長するためには、私にやらされるよりも本人たちがやる、やりたいという思いの方が絶対に伸びると思っています。大学生はもう伸びないということは絶対にないので、そのためにも本人たちの気づきが必要ですし、何よりも、バスケへの思いは大切にしてもらいたい。社会人になっても本気でバスケをできる人の方が少ない環境なので、この4年間ぐらいは燃え尽きて、青春を謳歌してもらいたいなと思っています」