伝統の質を問う洛南の若き指揮官
「今年は選手層がやや薄くてね……」
洛南の吉田裕司コーチは苦笑交じりにそう話す。京都府の新人大会では3位に終わり、2位までに与えられる近畿ブロックの新人大会への出場権を逃している。
190センチを超える選手がいないわけではない。ガードもいるし、シューターもいる。ただ、ゲームを見ると、どうにも洛南らしさが感じられない。いや、見た目には洛南の代名詞というべき「パス&ラン」をしているのだが、どうもそこに正確性や抜け目のなさみたいなものが見当たらない。
「正直なことを言えば、現状はまだ力がないし、経験もないし、自信もないんですよね」
そう話すのは、吉田コーチのもとでキャリアを積み上げ、ベンチで指揮を採っている河合祥樹アシスタントコーチである。
「僕自身もそういう子たちでチーム作りをスタートする経験がないんです。そのなかで府の新人大会が初めて僕自身で指揮を執るようになって、それまでの準備が足りていなかったように思います。今の2年生、1年生が、次の学年に上がるときの、1年後を見越した準備を全く考えてなかったので。それが新人戦に向けた短い準備期間ではっきりと出たという感じです」
高校バスケは基本的に毎年選手が入れ替わる。1年ごとに勝負をかけていくわけだが、それと並行して、コーチは来年、再来年のことも頭の片隅に置いて、準備もしておかなければならない。近年、吉田コーチに代わってベンチ前に立つ機会の多い河合アシスタントコーチだったが、彼の言葉を鵜呑みにすれば、チーム運営まで委ねられたのは今年のチームからということなのだろう。
もちろん新人大会の敗因は、それだけではない。キャプテンで司令塔の鬼防壬陽人がケガで不在だったことも大きかった。昨年からスタメンとしてゲームに出ていた井上涼雅にとっても、最も信頼のおけるガードが鬼防だった。その鬼防が復帰してきたことは、井上だけでなく、チームのステップアップにとっても大きい。
河合アシスタントコーチは、これから「洛南っぽい」と言われるバスケットに仕上げていきますよと言う。同校の卒業生でもある河合アシスタントコーチにとって、「洛南っぽい」とは何なのか。先にも挙げた「パス&ラン」こそが、そのまま洛南っぽさなのだろうか。
「確かに『パス&ラン』が洛南だって言われるんですけど、僕が考えているのは、パス&ランというより、パスした後に必要なところに動いていく、状況に合わせて相手の嫌がるところに行く、状況に応じて発想してスクリーンを掛け合うといった、 形にとらわれない適切な状況判断ができていくのが洛南のバスケットなのかなと思っています。それが形としては『パス&ラン』の『ラン』に繋がるというかね」
パスをしたら走る。パスを受けた選手はその動きに合わせてパスを出してもいいし、新たに生まれたスペースに誰かが走り込んで、そちらを使ってもいい。そのスペースを自分がアタックしたっていい。誤解を恐れず、ごくごく簡単に書けば、パス&ランとはそういう攻め方である。シンプルな動きだからこそ、状況に応じた正確な判断をすれば、攻め方は多岐に渡る。失礼を承知で書けば、例年に比べて個々の力が劣ると思われている今年の洛南だからこそ、洛南っぽいパス&ランは、より生きてくるのかもしれない。
上には東山と京都精華学園がいて、すぐ下にも昨年度のウインターカップに初出場した京都両洋がいる。もはや洛南一強時代でも、東山との二強時代でもない。新時代に入ろうとしている京都府で洛南がどんな存在になるのか。
「今年は僕ら荒らす番なんで(笑)。いろいろと策を考えて、荒らしに行かないと」
ニヤリとしながらも、伝統を継ぐ若き指揮官の目は輝いていた。