今回も熱戦が展開されているウインターカップだが、大会第5日までに行われた男女計114試合(男子は準々決勝まで、女子は準決勝まで)の中で、オーバータイムにもつれ込んだのは意外にも1試合しかなかった。その1試合とは、男子1回戦の西海学園(長崎)と呉港(広島)の顔合わせ。オーバータイムでも決着がつかず、ダブルオーバータイムにまで突入したことを考えると、少々気が早いが今大会のベストバウトの1つに選んでも良いかもしれない。
試合中盤に主導権を握り、第3クォーター途中には一時18点差をつけた西海学園に対し、呉港も猛反撃を開始。第4クォーター残り3分16秒に呉港が追いついてからは両者全く譲らず、オーバータイムに入った。追いついた勢いか、そのオーバータイムは呉港が残り1分5秒の時点で7点リードを奪い、西海学園の鍛治和彦コーチは「もう負けたと思って、選手は2人くらい泣いていた」と証言。しかし、ここから西海学園は底力を見せる。
タイムアウト明けのオフェンスでキャプテンの南川雅斗が3ポイントを沈めると、徳永将大もダブルクラッチのドライブで続き、残り8.1秒に再び徳永のドライブがネットを揺らして同点。鍛治コーチ曰く、7点ビハインドを背負った時点で「まだ試合は終わってない」と周囲を励ましていたのがこの2人であり、諦めない姿勢を自ら示してみせた格好だ。
2人の檄に、チームメートは勇気づけられた。ダブルオーバータイムでは、既につった脚を引きずっていた小田代天とジャンバルボ海斗の得点で波に乗り、最後は宗像竜成の3ポイントで50分の死闘を締めくくった。最終スコアは102-93。最後の5分間で西海学園は、留学生を擁して高さのある呉港に3点しか許さなかった。
西海学園は、夏のインターハイも1回戦でオーバータイムの激闘を制している。小田代は「今まで結構オーバータイムが多かったんですけど、負けたことがないんです。だから、自分たちを信じて頑張ろうと思いました」と、過去の経験が精神的な支えになったと実感。小田代はインターハイでも脚をつってベンチに下がり、そのときはそのまま勝利の瞬間を迎えたが、今回は太ももやふくらはぎに加えて土踏まずまでつりながらもコートに戻って攻守にハッスルした。チームメートを激励した南川や徳永も含め、西海学園の気力にはただ驚嘆するばかりだ。
そして実は、西海学園には先日川崎ブレイブサンダースの特別指定選手となった米須玲音(日大)の中学時代の後輩が、南川をはじめ複数いる。米須といえば、東山(京都)のエースガードとして臨んだ前回大会決勝で仙台大明成に試合終了間際に決勝点を許して準優勝に終わっている。そんな先輩の姿を見た小田代は「最後まで何があるかわからない。守りに入ったら負けだと思いました」と諦めない気持ちを自身に強く植えつけた。他にも南川らは米須からよくアドバイスを受けていたらしく、19歳の若さでB1という国内最高峰の舞台にも立つ先輩の姿はチーム全体のモチベーションを一段階引き上げているに違いない。