2018年度に就任した中川監督は今年が4年目。当時の1年生が4年生となり、「コート内外で、良くも悪くも僕のことを一番よく知っているし、僕も同級生と呼んでます」という中川監督は「最初に見たときは小学生かなっていうくらいでしたが、一生懸命練習してきて、プレー以外の部分でもこのチームへの貢献は高かった。バスケットを通じて人として一番成長できた学年だったと思います」と、彼女たちの大学生活を見届けてきた喜びを感じていた。これは、プロの世界よりも強く味わうことのできる、アンダーカテゴリーならではの指導者冥利というものだろう。また、地方の大学として壁を破りたいという野心も、そこには少なからずある。
「僕自身山口のド田舎出身ですが、バスケットで人生がより豊かになった。彼女たちも同じような経験をして、世の中に貢献できるような人になってほしい。だからこそこの舞台に来たいという、その気持ちが一番強いですね。ローカルな選手が多いですし、全国の経験もない選手ばかりでやっていて、そこで結果を出せば下のカテゴリーとかいろんな選手に勇気を与えられるかもしれない。『岡山プライド』でやっていきたいです」
話を冒頭の大田区総合体育館に戻そう。かつてそのプレーやパフォーマンスで観客席を沸かせてきた大田区総合体育館のコートに再び立ったことを、本人は「不思議な感覚」と表現した。
「4年前まで毎週のように試合していた所に、コーチとして戻ってきたのかって……でも、今日はいろんな人が観客席から応援してくれて、僕たちはまだ大したレベルじゃないんですが、もっと強くなって戻って来たいなって思いましたね」
来年4月に始まる新年度は、中川監督自身がリクルートした選手が全学年揃う。かねてから「日本代表のメダル獲得に貢献したい」と言い続け、「トム・ホーバスさんが示してくれた戦い方に対して、僕なりに貢献できることはあるんじゃないかと本気で思った」という中川監督の理想をともに追求しようという意欲にあふれた若者が、ここからさらに “カズバスケ” を体現すべく日々の練習に励むことになる。
「IPUブルーウェーブ旋風を巻き起こしたい。相手どうこうではない、敵は己ではない、自分自身をしっかり表現するということ。選手たちに対して思っているのは、『この舞台で踊ってこい』というのが一番。それこそが、我々が目的としている恩返しや貢献になると思って、来年またここに帰ってきてもっと上に行きます」
「本当はもっとここにいたかったんですが、負けちゃったんでおとなしく帰ります(笑)」とおどけながらも、誰よりも野心に満ちたまなざしで1年後を見つめている。それが、中川和之という男だ。
文・写真 吉川哲彦