勝ち負けのプレッシャーを超えた気持ち
女子日本代表の永田萌絵(トヨタ自動車アンテロープス)、Wリーグ2020-21シーズンのルーキー・オブ・ザ・イヤーの平末明日香(トヨタ紡織サンシャインラビッツ)、ともに富士通レッドウェーブで活躍する岡田英里と藤本愛妃らが2年生のときに東京医療保健大学は初優勝し、その後の3連覇へと導いた原動力であった。インパクトある彼女たちが一気に抜けたあと、新キャプテンとなった崎原成美(現トヨタ紡織サンシャインラビッツ)をはじめ、残った選手たちは4連覇というプレッシャーが重くのし掛かる。プレー中の表情は曇り、何のためにバスケをしているのか迷走していった。
それまでの自身のコーチングに対し、「高圧的だった」と認める恩塚監督。自らの指導法をあらため、選手たちの内側にあるワクワクを引き出す方針に変える。すると、選手たちの表情は見違えるように明るくなり、自信を持ってプレーした結果、4連覇を成し遂げた。迎えた今年は、もう誰も5連覇に対するプレッシャーを感じてはいなかった。
リーグ戦から指揮を執ってきたのは、伊藤彰浩アシスタントコーチである。チームに携わってまだ4ヶ月程度。それまでは母校である愛知産業大学工業高校バスケ部のアシスタントコーチを務めていた。伊藤コーチにとって憧れの存在でもある恩塚監督の学びを乞うため、その門を叩いたのは昨年のインカレが終わった今頃のこと。その熱心さに心を打たれた恩塚監督は、東京オリンピックへ向けて女子日本代表アシスタントコーチとして不在となる間、「チームをサポートして欲しい」とオファーする。母校に籍があった伊藤コーチだが、「前職の方々にも本当にご理解とご支援をいただいて、快くたくさんの方々に笑顔で送り出していただきました」とすぐさま上京してきた。恩塚監督も「その決断力が素晴らしく、期待して任せることにした」というのが経緯である。
選手は楽しく思いっきりプレーすれば良いが、全ての責任を負う立場となるコーチはそうもいかないはずだ。いきなり大舞台で指揮することとなり、さらに5連覇へ向けたプレッシャーは容易に想像される。しかし、選手同様に伊藤コーチもポジティブなマインドを持ち、笑顔でこう答えた。
「プレッシャーではなく、本当に今の環境がありがたいです。恩塚監督や(吉田)亜沙美さんと一緒に働かせていただけていることに心から感謝しています。4連覇をしている強いチームであり、自分たちの理想をしっかりと持っている選手たちとともに戦えることにすごく喜びを感じています。『ワクワクが最強』、もうこれに尽きます。やらされるとか、がんばらなければいけないではなく、自分たちの理想に向かって最高の笑顔でプレーすることが自分たちを強くし、最高のパフォーマンスにつながっていきます。その取り組みが、『日本バスケ界の輪として広がっていけば最高だよね』とみんなで話しています。本当にそれに尽きます」