長谷川氏が練習に姿を現せば、「選手たちもピリッとします」と空気が変わる。日本一になる過程で大事になるのは練習しかない。その雰囲気が悪ければ、長谷川氏が檄を飛ばすこともあるそうだ。保泉は「一つひとつのバスケットの質やコート上でハッスルしたり、声を出したりすることが昨年よりも雰囲気良くできるようになりました」という変化を感じている。
長谷川氏が日本代表のヘッドコーチを務めていたとき、「リーダーは誰がなってもいい。それが多ければ多いほど、チームは強くなる」と選手たちの責任感を促していた。キャプテンの田臥勇太(宇都宮ブレックス)だけではなく、小野龍猛(信州ブレイブウォリアーズ)、橋本竜馬(レバンガ北海道)、古川孝敏(秋田ノーザンハピネッツ)ら全員が、コート内外で声を掛け合い、鼓舞し合う。チームとしてまとまっていたからこそ、2015年のアジア選手権(現アジアカップ)で18年ぶりとなるベスト4入りを果たし、リオオリンピック出場へ望みをつなぐ世界最終予選の切符を手にした。
3年生の永野聖汰と相原アレクサンダー学、保泉は青山学院大学を引っ張っていく存在にならねばならない。ラストシーズンにも関わらず、来年のことを考えてプレーし続けてくれた斉藤のためにも、精神的に頼もしくなってもらいたい。
長谷川氏がスタンドで見る姿は、2006年に日本で開催された世界選手権でのアメリカ代表を思い出す。“コーチK”ことマイク・シャシェフスキーが新指揮官となって、NBAの超スーパースター軍団を束ねはじめたときだ。ヒューストン・ロケッツでNBA2連覇へ導いた実績ある“ルディT”こと、ルディ・トムジャノビッチがスカウティング・ディレクターとして、スタンドからゲームを見ていた。そのときのアメリカは準決勝でギリシャに敗れ、3位に終わっている。しかし、2008年北京大会以降、オリンピックでは3大会連続で金メダルを獲得した。
青山学院大学も今年は勝つことができなかった。新体制となり、来年から巻き返しそうな予感がする。ヘッドコーチ時代は情熱型だった長谷川氏が、冷静に見ている今の方が恐ろしい。
文・写真 泉誠一