一夜開けて迎えた専修大との決勝戦では、立ち上がり早々相手のエース盛實海翔が連続して3Pシュートを沈め0-6とリードされる。が、ここでお返しの3Pを放ったのは牧。「盛實の気合が伝わってきて、このままじゃ流れを持っていかれると思った」という牧はその後も積極的に攻めてチームを波に乗せる。1Qで22-18とリードを奪った筑波大は2Q以降も激しいディフェンスからの速攻、高確率のアウトサイドシュートで徐々にリードを広げると、後半にはさらにギアを上げてゲームを支配した。最後まで専修大の反撃を許さず91-76でタイムアップ。筑波大が勝ち取った3年ぶり5回目の栄冠は、同時に牧が初めて“自分の手”でつかんだ輝かしい優勝でもあった。
表彰式の後、牧はやや上気した顔で取材陣の前に現れた。
「今日の優勝は本当に最高にうれしいです。勝てたのはもちろんですが、5戦を戦いながらチームとしてどんどんよくなっていくのを感じられたこともうれしかった。僕は学生バスケットにはここでしか経験できないことがあると思っています。僕自身、1年、2年、3年とたくさんのことを経験してきました。苦しいこともいろいろあったけど、そういう経験はみんな今日の優勝につながっている気がします。改めて思うのは、大学で勝つチームというのはバスケットだけじゃなくて、普段のあいさつとか掃除とか荷物の整理とか、あたりまえのことをきちんとできるチームだということ。僕もそれだけは忘れないように心がけてきました。先輩の姿から後輩がなにかを学ぶことで伝統は生まれます。後輩たちにとって僕がどんなキャプテンで、どんなリーダーだったのかはわからないけど、一つでも学べるものを残せたならうれしいって。残せたならいいなと思っています」
『後輩たちにとって僕がどんなキャプテンで、どんなリーダーだったのかはわからないけど…』─── 牧が自問するように口にした言葉の“答え”を聞いたのは記者会見場だった。登壇したのは吉田監督と先発メンバー5人。そこで3人の下級生たちが語った4年生への思いは以下だ。
「牧さんと増田さんとはずっといっしょにやってきて、辛い思いばかりさせたから、今日は4年生のためになにがなんでも勝ちたかった。どうしても勝ちたかったです」(3年・菅原暉)
「4年生とは僕が1年のころから厳しい練習や苦しい思いをいっしょに経験してきて、僕のカバーもいっぱいしてもらって、その恩返しができるのは今日だと思いました」(3年・山口颯斗)
「自分にとって牧さんと増田さんとは高校からの先輩で、牧さんはまだ一度も優勝を経験したことがないと知っていたので今日は絶対優勝してみせると思ってコートに立ちました。コートでもベンチでもすごく声を出して背中を押してくれる4年生の存在が本当に心強かったです」(2年・井上宗一郎)
そして、最後は吉田健司監督のこの言葉。「試合に勝つチームは4年生の気持ちが強いチームです。4年生がいかにリーダーシップを取ってくれるかということ。この優勝は4年生たちの成長あってこそのものだと思っています」
自分のリーダー像を求めて走り続けた1年。牧は最後にキャプテンとして、リーダーとして、後輩たちにしっかりとバトンを渡した。
文 松原貴実
写真 泉誠一