4年間、毎年のように昇降格し、常に違う環境で戦ってきたのが神奈川大学である。4年生の工藤卓哉選手が入学したときは2部にいたが、その年に3部降格という苦い思いをしている。
「3部に落ちた経験をしているのは、自分たちが最後の代です。降格したときの悔しさをすごく実感しているからこそ、今年はなんとしても1部に残りたい思いが強いです」
その後、すぐさま3部から抜け出し、リーグ再編成によって12チームに拡大した運もあって、神奈川大学はトントン拍子で創部初の1部昇格を決めた。
残り5分までは互角に戦えているが──
1部リーグで新たな歴史を刻みはじめた今シーズン。開幕戦は筑波大学に74-75、翌日は同じく2部から昇格した中央大学に71-70で初勝利を挙げ、3戦目は専修大学に62-63で競り負けたが、いずれも1点差の接戦だった。
迎えた4戦目の青山学院大学戦は開始早々に引き離され、4-15と劣勢に立たされる。幸嶋謙二ヘッドコーチはタイムアウトを取り、ディフェンスから立て直したことで本来の姿を取り戻す。すぐさま17-17と追いつき、前半終了時には松岡恭也選手が3Pシュートをブザービーターでねじ込み、33-26とリードして折り返すことに成功した。第3クォーターを終えた時点でも、46-44とリードしていたのは神奈川大学の方だった。しかし結果は67-71、青山学院大学に逆転負けを喫している。
「第4クォーターの残り5分くらいまではどのチームとも互角に戦えている実感はあります。しかしそこからの時間帯は、1部で戦ってきたチームは勝負どころや流れが傾きかけたところでのワンプレーだったり、経験値がチーム全体の伝統として残っているためになかなか勝ち切ることができません」(工藤選手)
第4クォーター、幸嶋ヘッドコーチは「走ろう!」と声をかけ、選手たちを送り出した。しかし、そこからスピードを上げたのは青山学院大学の方だった。スイッチが入った1部常連校に対し、思うようなオフェンスをさせてもらえなければ、ディフェンスで対抗することもできない。工藤選手もその負の連鎖が課題であることは分かっている。
「自分たちの流れが悪いときはオフェンスが1on1になってしまい、5人が連携せずにシュートを打ってしまって、相手にリバウンドを獲られて逆に走られてしまうところが良くないところです。そういうときこそ全員が動き、自分が起点となって良い流れを作っていかなければいけないのが課題点としてあります」
頭では分かっていたつもりでしたが──
1部リーグでの戦いに備え、この夏は秋田合宿を行った神奈川大学。「一つひとつのプレーの精度、スクリーンやボックスアウト、ドリブルなど今までやって来たことの全てにおいて一段階、二段階レベルを上げることを意識して取り組んできました」と工藤選手が言うように、午前・午後・夜の三部練習を行って鍛えてきた。寝食を共にしたことで、選手同士のコミュニケーションも活発に行われ、チームとしてひとつにまとまれたことも大きい。
この取材をした時点では、4試合を終えて1勝3敗。勝負どころの強さの違いとともに、「頭では分かっていたつもりでしたが、フィジカルは大きな違いだと感じています」と工藤選手は、1部リーグとの差を痛感している。
「昨年以上にウェイトトレーニングへの意識が高くなっています。これからさらに1部リーグの選手の体格や当たりを経験することで、もっともっとその必要性を感じています」
経験の差によって勝ち切れずにいるが、良いディフェンスができているときは神奈川大学らしさでリードを奪えている。1部のチームたちは190cmオーバーがゴロゴロおり、青山学院大学戦ではほとんどがミスマッチになってしまうほどの身長差があった。対する工藤選手は184cmでパワーフォワードを担わねばならない。それでも身体を当てて対抗することで、「オフェンスでは逆に有利になる」と考え、ディフェンスからイニシアティブを取ることを常に心がけている。
全勝の日本大学に初黒星をつけ、快進撃の兆し!?
2部から昇格してきたばかりの神奈川大学に対し、試合数を重なるごとに対戦相手もその特徴を理解しはじめている。それは神奈川大学にとっても同じであり、1部リーグの強度やプレーの質に慣れ、特長も把握しはじめているところだ。4年生の工藤選手にとって、後輩に継承する勝負のラストシーズンである。
「今年1部に残ることができれば、この経験を来年につなげながら改善することもできますし、当たりの強さなどにも慣れていくと思います。神大にないのは1部の経験値だけなので、しっかり残留して、来年も再来年も1部で戦って、いずれは優勝できるように、その土台を作るためにもがんばっていきたいです」
この取材を終えた翌日(9月9日)、唯一、全勝していた日本大学を90-68で圧倒し、神奈川大学が初黒星をつけた。工藤選手は26点を挙げ、エースとして頭角を現しはじめている2年生の小酒部泰暉選手は37点と大活躍し、2勝目を呼び込んだ。あいかわらずおもしろいチームである。
高校時代に全国大会に出場した経験者がほぼおらず、190cmを超える選手もいない小さな神奈川大学の挑戦はまだまだはじまったばかりだ。
文・写真 泉誠一