「みんなの最高の笑顔のためにがんばろう」
東京医療保健大学の恩塚亨ヘッドコーチはそう話して、選手たちを決勝のコートへと送り出した。その言葉の裏側には、「ひとつのルーズボールであったり、相手よりも一歩前に出ることなど、数センチの勝負をどれくらい熱いエネルギーでやり抜けるか。みんなの最高の笑顔をイメージすればがんばれると思った」とおり、選手たちはプレーで応えていく。ディフェンスでプレッシャーをかけ続け、歯を食いしばってライン際のルーズボールを追いかける。ワンプレーごとのエナジーで上回った東京医療保健大学が96-72で拓殖大学を下し、最高の笑顔を見せてくれた。2006年に恩塚ヘッドコーチ自らが創設した東京医療保健大学バスケ部が、ついに日本一に輝いた。試合終了の笛がなった瞬間、コート上にいた選手たちは抱き合いながらコートに倒れ、肩を組んだベンチメンバーがその背中を追っていった。
拓殖大学は関東女子大学リーグでは5位、佐藤森王監督曰く「不本意な成績」だった。昨年のインカレでは専修大学に2回戦で敗れている。今年は多くを望まず「2回戦を突破してベスト8に入ることだけを考えていた」。そのことを裏付けするように準々決勝以降は相手を対策することなく、「自分たちの力で対応していこう」と佐藤監督はチームを率い、決勝まで導いていく。もう一つ、「実はヤシンがリーグ戦の後半からケガをしていた。結局、練習ができないままインカレに臨むことになった」と不測の事態が起きていた。190cmの留学生、ロー ヤシン選手は拓殖大学の中心選手である。そんな状況下でも「がんばって、よく決勝まできてくれた」と佐藤監督は選手たちを労った。24点差で敗れた決勝戦は「点数差だけではなくチームとしての仕上がりやいろんな面においても差があり、拓大としてもまだまだがんばらねばいけないと思わされる試合だった」。だが、ヤシン選手が本調子ではないことを考慮し、走るスタイルに切り替えて臨んだこのインカレは拓殖大学らしさを取り戻すきっかけにもなった。
最終日のメインコートに立った4チームのうち九州2位の鹿屋体育大学を除き、いずれのチームも主力は下級生たち。その中において先発で起用される4年生を挙げれば白鷗大学は星香那恵選手、拓殖大学はヤシン選手のみ。その2チームを破った東京医療保健大学はMVPを受賞した津村ゆり子選手とワン シン選手の2人を擁し、ベンチスタートの岩崎ゆみこ選手もしっかりとつないでくれた。さらに、ケガをした森田菜奈枝選手の存在も大きかった。苦しいときこそ4年生のリーダーシップが重要であり、その安定さでほんの少しだけ上回った東京医療保健大学が優勝したのも偶然ではないだろう。
下級生が主力であるからこそ、来年はさらに混戦必至となる女子大学バスケ。昨年の優勝校であり、4年連続となるはずだった決勝進出を阻まれた白鷗大学は「倍返し」に燃えていた。最終日のメインコートにいなかった関東2位の早稲田大学は「来年こそ見ていてください」とリベンジを誓う。インカレは終わったばかりだが、すでに新たな戦いの火蓋は切って落とされている。
大会結果
優 勝 東京医療保健大学 (初優勝)
準優勝 拓殖大学
第3位 白鷗大学
第4位 鹿屋体育大学
第5位 愛知学泉大学
第6位 早稲田大学
第7位 専修大学
第8位 大阪体育大学
個人賞
最優秀選手賞 津村ゆり子(東京医療保健大学4年)
敢闘賞 水野妃奈乃(拓殖大学3年)
優秀選手賞
ワン シン(東京医療保健大学4年)
岡田 英里(東京医療保健大学2年)
ロー ヤシン(拓殖大学4年)
星 香那恵(白鷗大学4年)
大串 梨沙(鹿屋体育大学2年)
得点王 シラ ソハナ・ファトー・ジャ(白鷗大学1年)
3ポイント王 上田 祐季(白鷗大学3年)
アシスト王 藤田 歩(拓殖大学1年)
リバウンド王 ロー ヤシン(拓殖大学4年)
MIP賞 星 香那恵(白鷗大学4年)
文・写真 泉 誠一