大会4連覇の偉業が懸かる筑波大と初優勝を目指す大東文化大。今年のインカレ最後の舞台に立ったのは対照的とも言えるこの二校だった。春のトーナメントの優勝チームである筑波大はその後エース馬場雄大がプロとなって(現アルバルク東京)となってチームを去り、走力のある波多智也(3年)がケガで戦線離脱、同じく主力の1人玉木祥護(3年)もケガで出遅れる中、リーグ戦は波に乗れないまま5位に沈んだ。一方リーグ戦で筑波大から2勝を奪った大東文化大はモッチ・ラミン(202cm・2年)を柱に高確率の外角シュートと粘り強いディフェンスでリーグ3位に付け、このインカレも危な気なく勝ち上がってきた。だが、「筑波には決勝の舞台で戦った経験値があります。14年ぶりの決勝戦となるうちはあくまでチャレンジャー。その分思い切って臨みたいと思っています」と、西尾吉弘コーチ(大東文化大)は気を引き締めていた。
ラミンのゴール下シュートで始まった試合は、予想通り一進一退の攻防を見せる。3Q6分には52-42と大東文化大が初めてリードを二桁とするが、筑波大も増田啓介(2年)のインサイド、杉浦佑成(4年)の3Pシュートで反撃。最後は杉浦が沈めたブザービーター3Pシュートで60-57の3点差まで迫った。
勝負が分かれたのは4Q残り4分。バスケットカウントで8点のビハインドを5点に縮めた増田がその直後に痛恨の5ファウルで退場となる。「杉浦を5番に据え、モッチを外に押し出して増田がインサイドで得点する形ができていたが、この時点でそれが崩れてしまった」(筑波大・吉田健司監督)。この機を逃さなかった大東文化大はそこから17-3の猛攻を見せる。筑波大もキャプテン青木保憲を中心になんとか立て直しを図ろうとするが、波に乗った大東文化大の勢いは止められず、87-68の大差でゲームセット。「筑波大がモッチ対策をしてくることは予想できたが、それに対して策は講じなかった。そう簡単にモッチは抑えられないという自信がモッチにも私にもありました」(西尾コーチ)という大東文化大は、終わってみればモッチ・ラミンは30得点、16リバウンド。さらにその大黒柱に頼り切ることなく、熊谷航(3年)、奥住将人(3年)が思い切りのいいアウトサイドシュートを沈め流れを作った。途中からコートに出てしっかり自分の役割を果たしたベンチメンバー、心技の要として終始チームを牽引した葛原大智キャプテンの仕事ぶりも称えられる。苦しみながらリーグ戦を戦い、インカレ最後のコートに上った筑波大も立派であったが、リバウンド49-35と大きく上回り、執拗なディフェンスで11のターンオーバーを誘ったこの日の大東文化大はまさに王者にふさわしい見事な戦いぶりだったと言えるだろう。
大東文化大、優勝後のコメント
■西尾吉弘コーチ
前半はちょっとファウルが嵩んで、選手たちが思いっきりディフェンスできなくなる場面もありましたが、そこをベンチメンバーがよくつないでくれました。後半に関して言えば、リーグ戦でも先に仕掛けた方がイニシアチブを取れることが多かったので、どこかでゾーンを使うことは考えており、選手たちにも伝えていました。それを仕掛けたとき、筑波の足が止まったのがこの試合の流れ的には大きかったと思います。うちにはモッチという大黒柱がいますが、それだけではなくどこからでも点を取れるのが強み。ハードなディフェンス、ルーズボールなどと合わせて、その持ち味が発揮できた試合でした。
■#0葛原大智(4年・キャプテン)
気持ちの面でも相手を上回ろうと最初から声を出して戦えたこと、うちの持ち味であるリバウンドやルーズボールを40分間徹底してできたことが優勝につながったと思います。
筑波大の青木と杉浦は大濠(福岡大付属大濠高校)の同級生ですが、僕たちの代では全国優勝はできませんでした。そんなあいつらが筑波大に進んで1年からインカレで優勝をしている姿を見て、悔しいとか羨ましいとかいうより、自分の力の足りなさ、不甲斐なさを感じて、このままじゃだめだという気持ちで頑張ってきた4年間だったような気がします。(大東文化大が2部だったときは)「早く1部に上がって来い!」と言われていたし、「最後のインカレの決勝で戦おう」と約束もしていました。今日、その約束が果たせ、尚且つあいつらの連覇を阻止することができて感無量です。優勝した瞬間、胸に押し寄せてきた思いは言葉で表現できません。
■#12熊谷 航(3年)
今日は試合が始まる前から絶対接戦になるなと思っていました。ガードとしてはリーグ戦から激しくやってきたので、やるべきことは同じ。ターンオーバーが1つありましたが、ボール運びを含め結構冷静にプレーできたと思います。自分と奥住は声を出さなくてもアイコンタクトで分かり合えるし、2人で前から当たるときもお互いを信頼しています。そういう信頼関係があったからこそ、今日は筑波のターンオーバーを誘えたんじゃないかと思ってます。中学も高校(前橋育英高)も全国大会はベスト8が最高だった自分は、優勝ってどんなものなのかなぁという気持ちがありました。昨日の準決勝に勝って準優勝までは決まったけど、その上はどんなものだろうと考えてました。今日、優勝が見えた瞬間、いつもはあまり感情を表に出さない自分が大声で叫んでいて、ああこれが優勝することなんだとわかったような気がします。
■#23 奥住将人(3年)
試合には必ず自分たちの時間と相手の時間があります。相手の時間になったとき、自分たちがどれだけ我慢できるかが勝負だと思っていました。今日はそれができたと感じています。自分たちの武器となるのはディフェンスとリバウンドであり、そこからリズムを作っていこうとみんなで決めていて、今日はそれを40分間やりきることができました。いいときも悪いときも集中力を途切れさせず、自分たちのバスケットをやり続けたことが優勝という結果につながったと思っています。
■#91 ビリシベ実会(3年生)
この決勝戦は、試合が始まる前から「みんなでディフェンスを頑張って、声出していこう」と話していて、それが40分間できたことは本当によかったと思います。ただ自分は今日全然ダメでした。けど、(自分の)代わりに出てくれた4年の山岸(優希)さんとかがすごく活躍して、流れをつないでくれて、それを見ていることで自分も気持ちを切らさず頑張ろうという思いになりました。今日の優勝はチーム全員の力で勝ち取れたという実感があります。それが本当にうれしい。
■#15 モッチ・ラミン(2年生)
今日の決勝戦はディフェンスを頑張ればいい試合になると思っていました。ディフェンスがいいときは勝てるとき、ディフェンスがダメなときは負けるときです。このインカレの目的はみんなわかっていたし、自分たちには優勝する力があることも知っていました。あとはいかにお互いを信じて、前向きにプレーできるかということ。それが1番大切なこと。それができたから優勝することができました。
大会結果
優勝 大東文化大学(初優勝)
準優勝 筑波大学
3位 拓殖大学
4位 白鷗大学
5位 東海大学
6位 青山学院大学
7位 神奈川大学
8位 中京大学
個人賞
最優秀選手賞 葛原大智(大東文化大学4年)
敢闘賞 杉浦佑成(筑波大学4年)
優秀選手賞
モッチ・ラミン(大東文化大学2年)
熊谷 航(大東文化大学3年)
増田啓介(筑波大学2年)
阿部 諒(拓殖大学4年)
野崎零也(白鷗大学4年)
得点王 ゲイ・ドゥドゥ(拓殖大学1年)
3ポイント王 ゲイ・ドゥドゥ(拓殖大学1年)
アシスト王 牧 隼利(筑波大学2年)
リバウンド王 ゲイ・ドゥドゥ(拓殖大学1年)
MIP賞 齋藤拓実(明治大学4年)
文・松原貴実 写真・泉 誠一