2015年12月23日~29日まで開催されたウインターカップは、3年連続3連覇を狙う女王・桜花学園を破った岐阜女子と、土浦日本大学を4Qの攻防で制した明成の優勝で幕を閉じた。男女ともに最後まで予断を許さない白熱した試合は決勝戦にふさわしいものだったと言えるだろう。
男子の決勝戦が行われた最終日は早くから詰めかけたファンで満員御礼のにぎわいを見せた。スーパースター八村塁を擁し大会3連覇が懸かる明成と、その明成を国体で破った土浦日大。チームを率いた佐藤久夫(明成)、佐藤豊(土浦日大)両監督の言葉から今年最後の大舞台を振り返った。
『我慢』できた先に優勝が見えた
■優勝・明成高校 佐藤久夫監督
決勝戦を前に、佐藤久夫監督は「土浦日大には国体でも敗れており、強い弱いで言えば、私たちの方が少し弱いかもしれない」と思っていたという。優勝最有力チームの監督の口から聞く思いがけない一言だったが、それは同時に常に奢らず試合に臨む名将らしい言葉にも聞こえた。
「だからこそ、土浦日大の勢いに押され、選手たちが戸惑ったり、気持ちで負けそうになったとき、タイムアウトを取って彼らを普段着のバスケットに戻してやることが私の仕事だと思っています」
試合の前半は先行する土浦日大の背中を追う展開となるが、それも想定内のこと。選手たちには「ここは我慢。我慢して、我慢して、流れが来たらそこから一気に力を出し切ろう」と、声をかけた。
「私は“タイムアウトを取らない佐藤久夫”と言われているようですが、今日は傷が深くなる前にタイムアウトを取ろうと意識して試合に臨みました。どれだけ離されても一桁差なら逆転のチャンスは必ずやって来る。それまでは我慢。春が来るまでは辛抱を重ね、春の兆しが見えたときに一気に行こう、思い切ってやろう、真っ白になるまで完全燃焼しよう、それだけは何度も繰り返し言い続けました」
明成がその『春の兆し』をつかんだのは4Qがスタートして間もなくのこと。納見悠仁の3Pで57-57の同点に追いつくと、開始5分で連続12得点の猛攻を見せ一気に土浦日大を抜き去った。残り5分、土浦日大も懸命に追い上げを図るが、明成の加速したスピードを止めるには至らず78-70でタイムアップ。その瞬間、明成のウインターカップ3連覇の偉業が達成された。
「私たちは東北のチームだから」――佐藤監督がそう答えたのは、苦しい場面でも耐え抜いた精神力について質問されたときだ。
「我々はあの震災を経験しました。周りには大変な被害に遭われた方が大勢いて、その方たちが努力して、耐えて、復興に励んできた姿を見てきました。それが我々にいい影響を与えてくれたと思います」
また、今大会、同じ東北から出場した出場した東北(宮城)、能代工(秋田)の戦いぶりにも勇気をもらったと言う。
「東北は初出場ながら実に粘り強いバスケットで2回戦突破を果たした。能代工は我慢して、我慢して、流れが来たときに100%の力を発揮する戦いを見せてくれた。そういう姿は私たちの見本にもなったし、士気も高めてくれました。東北のチームの粘りと我慢強さ、それが我々の原点でもあり、両チームは我々をその原点に戻してくれたような気がします」
「我慢ができなくて自分たちのペースを崩してしまった」と、選手たちが唇を噛んだ国体の敗戦。それから2ヶ月、明成は劣勢時にも耐える精神力を身に付けた。外角シュートが思うように決まらなかった前半を我慢してしのぎ、自分たちに傾いた流れを確実にものにした戦いぶりにチームの成長が見てとれた。
「全国大会の大舞台は技術、体力だけでは勝てません」と佐藤監督。勝ち抜くために必要な精神力大切さを肌で感じたその先に明成の優勝があった。
勝利に対する執念が勝敗を分けた
■準優勝・土浦日大 佐藤豊監督
敗戦後の記者会見で佐藤豊監督が最初に口にしたのは「両方のチームが高校生らしく最後まで一生懸命に戦った。こんな気持ちのいい試合をやったのは何十年ぶりだろうと思えるほどいい試合ができたと思います」という言葉。結果は準優勝だったが「十分満足しているし、決勝の舞台に立たせてくれた選手たちにはとても感謝しています」
大会の組み合わせが決まってからは、ずっと明成と戦うことを考えていたという。決勝で明成と戦うためには途中、倒さなければならない有力チームもあったが、「それをなんとしてでも倒して明成にたどり着きたかった」
そして、もし決勝の舞台に上がることができたならば「正直、勝てると思っていた」――それだけの準備をして、それだけの策を練り、それだけのチームを作ってきた自信はあった。
「ただ、それを口にすると選手たちのプレッシャーになりますから、彼らには“相手は横綱だ”“向こうの監督は大監督だ”“俺たちは挑戦者だ”だから思い切ってぶつかっていくしかないと、ずっと言い続けてきました」
スタートから選手たちはよく動き「松脇(圭志)は点を取るだけでなく向こうの10番(三上侑希)をよく抑えてくれたし、八村(塁)に付いた軍司(泰人)も体を張って守り、リバウンドにも絡んでくれた。4Qが始まって2分までは自分たちのバスケットができており、勝てるという手応えも感じていました」
しかし、そこから始まった明成の猛攻。
「最後の最後にスクリーンにひっかかって6番(納見悠仁)に気持ちよく打たれてしまった。明成はディフェンスでもうちの杉本(天昇)や松脇を激しくマークしてきて、4Qにあのディフェンスができるということが王者なのだなと思いました。やはり、大舞台の戦い方を知っているチームであり、勝利に対する執念もうちより勝っていたと言わざるを得ません。うちの選手たちも本当に頑張ってくれましたが、最後はやはりそこに差が出たと思います」
22年ぶりの決勝の舞台、欲しかったのはもちろん優勝であり、それを逃した悔しさが小さいわけではない。だが、『闘将』で知られるベテラン監督が最後に浮かべたのは意外なほど柔和な表情だった。
「今年のチームにはとびきりのスーパースターはいないが、それぞれに15点から20点取れる子が揃い、相手は的を絞り憎かったと思います。気持ちのやさしい子ばかりで、一言でいうと“おひとよしのチーム”(笑)。相手を蹴っ倒しても勝ってやろうというのが全くない選手たちでね(笑)。でも、清々しく、本当に気持ちがいいチームでした。最後までこの子たちと戦えたことに感謝しています。はい、それはもちろんちゃんと言葉にして伝えましたよ。これまでありがとなぁ。おまえたちは最高だったぞと」
文 松原貴実
写真 吉田宗彦