文・写真 泉 誠一
大学生活1年目を終えた成果を試す2年生たち、挨拶代わりに暴れまくる1年生たちの下級生チームで繰り広げられたトーナメント「第56回関東大学バスケットボール新人戦」。青山学院大学(1部)vs 中央大学(2部)による決勝戦は、84-64と20点差をつけ、青山学院が5年ぶり9度目の優勝を飾った。
決勝戦の注目は、昨年の高校3冠を成し遂げ、早くも活躍を見せる青山学院#0納見 悠仁 vs 中央大学#33三上 侑希による「明成」対決。前半は三上がクイックモーションから次々と3Pシュートを決めていく。逆に納見は、三上をはじめとした相手の執拗なマークに苦しめられた。
青山学院の2年生、石井 悠太は「絶対に大丈夫だから」と声をかけ、下を向かせなかった。同じく2年生の前田 悟も、男子U-17日本代表としてともに世界と戦った仲間に対し、「ガマンしよう。絶対に後半になったらシュートは入るから」と勇気づける。その言葉通り、後半になるとドライブで打開し、3Pシュートを決めた納見。先輩たちに背中を押され14得点を挙げた。
第3ピリオド終盤、石井が3Pシュートを次々と決めて点差を離して行く。第4ピリオド中盤には20点差をつけ、優勝に手がかかった時だった。#4戸田 晃輔は「ここでゆるんだら意味がない」と声をかけ、もう一度集中させる。その直後、相手の攻撃を止めた戸田から石井にボールは渡り、走り込んでいたビッグマン#10高橋 浩平が速攻を決めて74-51と突き放す。頼もしい2年生の活躍が勝利を呼び込み、青山学院としては春のトーナメントを制した2013年以来となる優勝の称号を手に入れた。
強豪復活への期待感
新人戦に臨むチーム作りは、練習期間や1年生のモチベーションなどなかなか難しいところがあるようだ。2連覇を目指した筑波大学であったが、準決勝で青山学院に敗れて3位に終わった。吉田 健司ヘッドコーチは、「コート上でリーダーシップを取る者がいないので、バタバタとやられてしまった」と明治大学戦で反省点を挙げている。若いチームゆえに、どんなチームでも勢いに乗ると手が付けられなくなるのが新人戦の恐さだ。
青山学院も一筋縄ではいかなかったと石井は振り返る。
「最初はあまりうまくいかない部分もありましたが、『みんなで優勝するんだ』と、2年生が主体となって士気を高めていました。でも、最初はあまり1年生が付いてきてくれなかったです。ならば、2年生の僕たちが引き上げて、絶対に優勝するんだという気持ちを持ち、そのまま全試合に臨めたことが勝ちにつながったと思います」
比江島 慎(シーホース三河)や永吉 佑也(川崎ブレイブサンダース)らを擁し、大学バスケの頂点に君臨していた青山学院に憧れて入学した前田。「最近、青学は勝てていないのでこの1・2年生チームで挽回して、青学のバスケはまだ終わっていないことを証明しよう」とリーダーシップを発揮して臨んだことで、復活を遂げることができた。
「下級生から盛り上げることで、先輩たちのモチベーションも上がると思います。これから夏を迎え、きつい練習が待っていると思いますが(苦笑)、そこをがんばって自分たちが底上げしてチームを作り、もっと上げていきたいです」とも石井は話しており、優勝したこの勢いを秋のリーグ戦、そしてインカレへつなげていかなければならない。
有望な1年生たち
新人戦のリーダーズを見ると、得点上位ランキング6位までを1年生がズラリと占めている。
1位:アブ フィリップ(専修大学①) 23.5点
2位:増田 啓介(筑波大学①) 21.2点
3位:納見 悠仁(青山学院大学①) 21.0点
4位:盛實 海翔(専修大学①) 18.5点
5位:三上 侑希(中央大学①) 17.2点
6位:モッチ ラミーン(大東文化大学①) 16.5点
6位:前田 悟(青山学院大学②) 16.5点
進学を求めて渡米した日本代表候補選手の八村 塁をはじめ、FIBA U-17 世界選手権を経験した1年生たち。190cm台のビッグガードやオールラウンダー、2メートルを越える選手もおり、将来有望な世代である。名前を挙げれば切りがないほど、すでに名の通った楽しみな選手ばかりだ。
準優勝した中央大学において、189cmながらインサイドで体を張って粘りを見せた#70沼倉 壮輝。進学校である岩手県一関第一高校から指定校推薦で入学。スポーツ推薦ではないために、春休みに行われた合宿に参加できず、プログラムにも間に合わずに名前が載っていない秘密兵器がベールを脱いだ。
「まだ言われたことしかできませんが、それに関しては徹底して遂行してくれるので、これまでの中央大にはいなかったタイプ」と荻野 大祐ヘッドコーチは期待を寄せる。岩手県の国体メンバーで全国の舞台は経験しており、物怖じすることなく得意のリバウンドで存在感を示す。
「中学校(一関中学校)がディフェンス中心のチームであり、そこでディフェンスと走力は鍛えられました」と沼倉自身は話しており、決勝戦では17本のリバウンドを奪った。オフェンスでは3本の3Pシュートを決めたが、「あれはたまたまです」と謙遜。しかしリバウンドに関しては、「小学校の頃からボールの軌道を見て、だいたいここに落ちるのではないかと予測して判断してきた。それが今、生きているのかな」と言う。スポンジのようにすべてを吸収している沼倉の成長に注目だ。
春のトーナメントを制し、タレントが揃う筑波大学の2冠を期待したが3位に終わった。福岡大学大濠高校出身の1年生、増田 啓介と牧 隼利が先発を務める。有望な1年生が多い中、一番大きな205cmの森下 魁は試合を追うごとに成長を見せた。「とにかくガムシャラに戦っていました」と話す森下は、3位決定戦の日本体育大学戦では7本のリバウンドを拾い、14得点を挙げた。
留学生のフェイ ヌダリーを相手に、力強いプレイで対抗。「今日はファウル4つしてしまい、危なかったです。留学生を相手にも、ファウルをせずに抑えられるようになれば、チームも勝ち上がれると思っています」と今後の課題も見えた。日本一の筑波大の先輩たちから学ぶことは多く、楽しい日々を過ごしている。「体を作ってポストアップからのシュートの精度を上げるところから初めていき、先輩たちとやり合えるくらいに強くなっていきたいです」と抱負を語ってくれた。
中央大学は春の快進撃
2部リーグに所属する中央大学は、春のトーナメント6位に続き、新人戦は準優勝。この新人戦では、「何ができて何ができなかったかがハッキリした」と荻野ヘッドコーチは手応えを実感している。5連戦を戦い抜いた経験により、選手層も厚くなっていった。
準々決勝で競り勝った早稲田大学は1部に昇格したばかりであり、準決勝は同じ2部の日本体育大学に勝っただけ。決勝では、1部の青山学院に勝ちきれず、その壁を荻野ヘッドコーチは痛感している。
「勝負どころのシュート力に差があった。どうしても身長差が生じる分、リバウンドとルーズボールをどれだけ取りきることができるかを、もう少しチームとして追求していかなければいけない。ボールを展開しながら、自分たちのタイミングでシュートを打つシチュエーションを作れるかどうか。また、ペイントエリア内でどれだけ得点を増やし、逆にそのインサイドをどれだけ守れるかというところが『夏の課題』になる」
2年後を占う新人戦であり、今大会の主役たちが上級生となった時、同じような結果をもたらすようにしなければならない。中央大学や日体大にとっては1部昇格へ向けた原動力となり、3連覇、4連覇へ向けて底上げを狙う筑波大、そして復活ののろしを上げた青山学院。下級生たちの成長がチーム力となり、秋から本格的に始まる大学バスケシーズンがますます楽しみである。
[順位]
優 勝:青山学院大学(5年ぶり9回目)
準優勝:中央大学
第3位:筑波大学
[優秀選手賞]
高橋 浩平(青山学院大学②)
前田 悟(青山学院大学②)
三上 侑希(中央大学①)
波多 智也(筑波大学②)
大浦 颯太(日本体育大学①)
[新人王]
納見 悠仁(青山学院大学①)