文・写真 細田 季里
激戦を繰り広げたNBLファイナルも、6月5日に最後の王者が決定し、この先に待つのは、Bリーグ開幕(2016年9月22日)だ。盛り上がりを見せている日本のバスケットボール界だが、その勢いの追い風となるべく、近い将来Bリーグの選手となる大学生ボーラ―の成長は欠かせない。さらには4年後の2020年東京オリンピックに向けても、同じことが言える。そこで今回、日本の学生選抜として戦った大学生ボーラ―たちを紹介しよう。
ゴールデンウィークを終えた翌週、2016年5月13日(金)~15日(日)の日程で「第39回李相佰盃日韓学生バスケットボール競技大会(以下、李相佰)」が韓国・天安の祥明大学を舞台に開催された。“日韓大学生たちの定期戦”ともいえるこの大会は、日本と韓国の学生選抜チームが3試合を行い、2勝したほうが優勝となる。
■セレクションを経て
現在、大学卒業1年目から大学1年生までを対象に、2017年8月に行われる「第29回ユニバーシアード競技大会※1(以下、ユニバ)」(台湾・台北)に向けて、2年間におよぶ継続的な強化が行われている。李相佰はその強化の第一歩であり、まずは大学1年~4年までの候補選手45名の中から、セレクション合宿を経て12名が選ばれた。
その中には、2016年度日本代表候補の#6馬場雄大(筑波大3年)や昨年も李相佰を経験している#7成田正弘(拓殖大4年)、#24安藤周人(青学大4年)、#17杉浦佑成(筑波大3年)らを筆頭に、今季の大学バスケを代表する司令塔・#46生原秀将(筑波大4年)、#14伊藤達哉(東海大4年)などが顔を揃えた。
しかし出国直前、足の負傷により#6馬場が遠征メンバーから外れ、日本は11名で戦うことになった。
■3試合を振り返って
初戦の結果は46‐108で、“56点差”をつけられて大敗。続く2戦目、3戦目も敗れ、大会は韓国が『優勝』。それでも日本は、初戦の大敗を立て直し、徐々に本来の力を出し始めた。3戦目には第3Qを16点のビハインドで終えるも、試合終了間際には7点差まで追い上げる奮闘を見せた。
大会直前の関東大学選手権でチームを準優勝に導くゲームメイクを見せた#7成田に、2度目となる李相佰を振り返ってもらった。
「スピードも高さも、力の差をすごく感じました。2試合目は開き直ってできましたが、一生懸命やってこの結果。韓国のほうが上手い、と率直に思いましたね。3試合目は良かった部分がありましたが、第3、第4Qで連続得点ができまず、僕たちには安藤の攻めしかありませんでした(第3Qは安藤選手の8得点のみ)。あとは、相手に疲れがあってディフェンスが付いてこなかった場面でのシュートが入っただけですし……相手の守りを崩してシュートが入ったわけではありません。相手をどう崩すかは、今後の課題です」
2戦目までは調子が上がらなかったが、シュートを打ち続けた#24安藤。3試合目は31得点を叩きだし、終盤での追い上げの原動力となった。昨年の李相佰でもぎ取った1勝も、安藤のシュートが好調だった日。彼のシュートがチームに与える影響は大きい。
「個人的には1試合目、2試合目が悪すぎたので、最終戦は何とかしたいと思っていたんです。その気持ちを試合で出すことができ、数字を残せました。チームとしては試合を重ねるたびに良いところが出ましたが、悪いところも……それでも徐々に機能してきたと思います。僕は初めて海外遠征だったので慣れないことが多かったですね。試合球はナイキのボールで、高校時代にウィンターカップで使用した程度。久しぶりでしたが、この辺りの修正能力も今後は身につけないといけません。3Pが入ると自分も嬉しいし、チームとしても盛り上がります。ならば、もっと確率を上げないと。チームが求める時に、シュートを決めきる力が必要だと思います」
日本チームは「選抜チーム」になると、なぜか初戦から力を出すことができない。大会が終わる頃、“チームになっている”ことが多い。今回もその結果となってしまった。
「このメンバーは、昨年12月の李相佰を経験した選手が少なく、国際試合そのものが初めてだった選手もいます。対する韓国はいつも初戦にすごく気合を入れてくる。それに対し、何もできずに終わりました。これは、私たちスタッフがいくら言っても上手く伝わらない。実際に経験しなければダメなんです」(陸川 章ヘッドコーチ・東海大)」
もちろん、エースであり、一番の経験者である#6馬場が、直前に離脱を余儀なくされたことはチームに大きな影響を与えただろう。それでも、(馬場不在だとしても)初戦のような大敗をするチームではない。ポテンシャルの高いメンバーが集まっていたはずだ。現に、2戦目、3戦目と戦うごとに良くなっていったことを考えると、「それだけのことができるじゃないか」と、思わずにはいられない。
■「馬場がいなかったから、とは言われたくない」
1戦目が終わった後、#17杉浦がこうつぶやいた。馬場とは同学年で、筑波大入学後はともにチームに貢献、インカレ2連覇に功績に杉浦の存在は欠かせない。しかし、学生代表では主力の馬場と比べると、ベンチで過ごす時間が多かった。#7成田や#24安藤、そして#17杉浦も、次のユニバでは主力としての活躍を期待したい選手だ。
2年間の強化はまだ始まったばかり。見つけた課題を修正することの繰り返しでしか、先へは進めない。#17杉浦がこの大会で見つけた課題とは!?(以下、杉浦選手Q&A)
#17 杉浦佑成選手(筑波大3年/195cm/SF)》
―─大会を終えての感想は?
杉浦:個人としては、ボールの違いや初めての体育館というのは当たり前なのに、普段と変わらずのほほんと韓国に来てしまった、というか……もう少ししっかりとイメージしていれば、また違った動きができたのかな、と思います。チームとしても、出発前に日本で1泊した時から緊張感が足りないと感じていました。気づいていたんですが、そのまま1戦目に出てしまったと反省しています。
―─チームの雰囲気について、もう少し教えてください。杉浦選手は、昨年のユニバにも出場しています。昨年のチームと比較していかがでしょうか?
杉浦:日常生活であまり“自分を出さない”というか、みんながみんなに合わせよう、集団に馴染もうとしすぎているように感じました。昨年はそれぞれが個性を発揮していたし、“自分を持っている”人の集まりだった、そんなイメージがあります。
―─今思うと、どちらが良かったと思いますか?
杉浦:1戦目の結果からすると、昨年がよかったということになりますよね。みんなに合わせて、遠慮してしまっている。合わせるのが良くない、とは思わないですけど、自分を持っていないと貪欲にはなれない。1戦目はセットプレーを意識し過ぎて、個人として良いところが出せませんでした。セットプレーを阻止されると、何もできずに終わる、そんな感じでした。
―─大敗した1戦目は、プレーしながらどう感じていんでしょうか?
杉浦:セットプレーにこだわりすぎていたし、セットプレーがうまくいかなくて……僕もそうですし、みんなもそうだったと思いますが、“俺が何とかしよう”といのがあまりない。それでガードが孤立してしまい、達哉さん(伊藤・東海大4年)たちがピックするしかなくなってしまいました。しかも、相手には高さがあるのでブロックされたり、オフェンスがうまくいかなったり……そのまま相手にブレイクを出されしまう感じでしたね。
―─1戦目が終わった後、「馬場がいなかったから、とは言われたくない」とコメントしていました。そう思ったのはこの試合が終わった後ですか?
杉浦:いえ、馬場が参加できないとわかった時からです。「大丈夫かな!?」とか……実際にあいつがいないとリバウンドが厳しいし、ブレイクも出せないかもしれない。昨年は1勝できたのに、今年勝てなかったら、周りの人たちはそう思うじゃないかな、と。だから、そう思っていたんです。
―─それを踏まえ、「自分が何とかしよう」という想いは?
杉浦:それはありました。陸川ヘッドコーチも攻撃のファーストオプションに自分をよく使ってくれましたしが、あまり期待に応えられなかったですね。
―─プレー以外でも、声を出してチームを元気づけることもできますが、そういった声掛けはいかがでしょうか?
杉浦:それが、僕はあまり声を出せない。トレーナーの吉本さん(青学大)にも「もっと下のポジションのメンバーが声を出せば、チーム全体の反応が良くなるから出せよ」と言われていたんです。でも、いざ試合になると声が出ていないことに気づきました。やばい、と思って出そうとするけど、普段出していないから「ディフェンス!」とかしか言えませんでした。
―─その点も踏まえて、韓国のインサイド陣から何か学んだことは?
杉浦:彼らはガードに対して、積極的に指示を出していました。そこは今後の課題であり、変わらなければいけないと思っています。もっと自分に自信を持ち“俺がチームをリードするぞ”ぐらいの気迫で引っ張っていきたいです。
来年、2017年夏のユニバに向け強化は続く。次は2016年6月末に開催される「アジアパシフィック大学チャレンジ(韓国)」に参加予定だ。
■大会名 第39回李相佰盃日韓学生バスケットボール競技大会
■大会結果
優勝 : 韓国学生選抜(3勝0敗) 通算成績 (82勝30敗3分)
日本学生選抜(0勝3敗) 通算成績 (30勝82敗3分)
■試合結果
1戦目 日本学生 ●48 (13-28.16-29.9-25.10-24)106○ 韓国学生
2戦目 日本学生 ●51 (6-23.21-16.15-22.9-18) 79○ 韓国学生
3戦目 日本学生 ●67 (17-18.17-17.8-19.25-25 )79○ 韓国学生
全日本学生バスケットボール連盟HP ⇒ http://www.jubf.jp/news/detail/id/153
※1:国際大学スポーツ連盟主催の国際学生競技大会。17歳以上28歳までの学生(卒業後2年以内の者を含む)が参加資格を持ち、2年ごとに開催される。