Text & Photo by Futoshi Mikami
ソメイヨシノが葉で覆われる晩春の秋田・能代に、高校男子バスケットの“春”がやってきた。5月3日から5日までおこなわれた「能代カップ高校選抜バスケットボール大会(以下、能代カップ)」は、県立能代工業の全国大会30回優勝を機に創設され、今年で29回目を迎える。出場チームはホスト校の能代工を含め6校。今年は明成(宮城)、帝京長岡(新潟)、市立船橋(千葉)、洛南(京都)、そして福岡大学附属大濠(福岡)が参戦した。
夏のインターハイ、秋の国体、冬のウインターカップに次ぐ「第4の全国大会」と言われる能代カップだが、結果だけに注目すべき大会ではない。冬のあいだに築いたチームの根幹を強豪校とのゲームで出しながら、今後の課題を抽出していく。4月に迎え入れたルーキーたちを試す場でもある。
■市民の厳しい目に晒されながら
昨年度以上に苦しんでいる能代工だが、栄田直宏コーチはだからこそと能代カップの意義をこう語る。
「今年のチームは県の新人大会で3位となり、東北新人大会にも出場できませんでした。それでもTKbjリーグの前座試合などをさせていただけるのは“県立能代工業”という名前があってこそ。成績はよくないけれども、能代カップでも全国の強豪校を相手に5試合は保証されている。こんなありがたいことはありません。後悔しないように戦おうと決意して臨んでいます」
結果は史上初の5連敗に終わったが、能代工らしさは垣間見られた。ディフェンスを起点に、相手を揺さぶりながら速い展開に持ち込む伝統のスタイルは、相手チームを苦しめた。ただ対応されると勢いを失い、勝利への壁を乗り越えられない。ここは1年をかけて修正すべき点になるだろう。
目の肥えた能代市民はいいプレイに拍手を送る一方で、敗戦が見えると早々に席を立つ厳しさを兼ね備えている。そうした厳しい目のなかで能代工の選手たちはどれほどたくましく育っていくか。栄田コーチも「今は自分たちのやれることをコートにぶつけていくとき」とじっくり先を見据えている。
■変幻自在なスタイルを追求
例年以上に選手層が厚く、さまざまなタイプのユニットを編成し、状況に応じたバスケットを展開する今年の福岡大大濠。能代カップでも5連勝で優勝を決めたが、感想を求められた片峯聡太コーチは言下に「ダメです」と答えた。
「5試合目ということは、インターハイでシード権を獲得できれば、決勝戦ということ。その5試合目でボールへの執念を失い、ねちっこさがなくなるのは大反省です。タフに、執念を持ってプレイするように伝えていたのですが、それが続きませんでした。コート内にリーダーがいないことが顕著です。私が指示を出せばできるのかもしれませんが、それを自分たちで乗り越えられなかったところに弱さを感じます」
それでも1月から作り上げてきたチームプレイのすべては出し切った。留学生ビッグマンに対するゾーンディフェンスも、惜しげもなく披露した。
「能代カップではそれらが通用するかを確認したかったんです。そのうえでプレイを整理し、いくつかの工夫を加えながらインターハイ予選に向かいたいと思っています」
昨年は優勝候補に挙げられながらもケガ人に泣き、インターハイ、ウインターカップとともに初戦敗退の憂き目を見ている。同じ轍は踏まない。しかしインターハイの優勝を目標の1つにしながら、その予選も忘れるわけにはいかない。県内には全国トップクラスのライバル校、福岡第一がいる。全国はもとより、県内の厳しい戦いを勝ち抜くためにもまだまだ工夫が必要だというわけだ。
■たった1つの枠をもぎ取るために
それでもインターハイに限って言えば、2枠ある福岡県はまだいいほうだろう。たった1つの枠をライバル校と争う新潟県と京都府はよりシビアな戦いを強いられる。
帝京長岡の柴田勲コーチは初出場となる能代カップを「厳しい展開のなかで我慢強く戦ったり、勝負所でのかけひきをおこなうなど、公式戦によく似たゲーム。それでいて昨日の反省を翌日に生かせる、貴重な大会です」と語る。ここでの経験が、県内最大のライバル、開志国際との決戦に間違いなく生きると考えているのだ。
今回はエースのタヒロウ・ディアベイトがケガで帯同していなかった。それを考えると、能代カップで見せた鍛えられたチームディフェンスや、内外のバランスが取れたオフェンスは、より厚みを増してくる。それでいて柴田コーチが「タヒロウが戻ってくると、彼頼みになってしまって、今回のような腹を決めてシュートを打ちに行く姿勢がなくなるかもしれない。そこをどうするかがカギ」とチームケミストリーの重要性を見失わないところに、帝京長岡が今年にかけている気持ちがにじみ出ている。
■熱い男が戻ってきた
洛南もまた府内に東山というライバル校を抱えており、吉田裕司コーチは「この時期にはある程度できてないとダメなんだけど、まだまだ弱い」と苦笑いを浮かべる。それでもエース・津屋一球の1対1は会場を沸かせ、チームも試合を重ねるごとに粘りの姿勢を見せられたことは自信につながる。
さらに昨年8月に右ヒザ前十字靭帯を断裂した柳川幹也の復帰にも注目したい。吉田コーチも、柳川本人さえも「まだまだチームに馴染めていない」と言うが、3日間を通して今のチームにおける自分の役割、立ち位置を少しずつ理解してきたようだ。以前のような絶対的なシュート力こそ発揮できていないが、最終日に見せた熱いハートも彼の持ち味のひとつである。
「チームは勝っているときこそ声も出ていて、1つになっています。でも負けているときは声さえ出ていない。そこで僕がいかに声を出すか。プレイでもまだまだみんながそれぞれの役割を理解できていないように思います。だから迷いがある。もっと役割が明確になればチームも変われると思います」
高さに対する課題は残った。東山に206cmのカロンジ・カポンゴ・パトリックがいることを考えると、彼をいかに抑え込むかが1つのカギになる。それでも技術やフィジカルだけではない、チームが勝利に向かう上で欠かせない資質を持った3年生が復帰できたことは次への推進力になるはずだ。
■開花まで走り続ける蕾たち
明成は圧倒的な存在感を示した昨年度の3年生(現・大学1年)が抜け、まだまだチームの根幹づくりの最中だが、それでも約1か月前におこなわれた「KAZU CUP(カズカップ)」に比べると選手の迷いは少なくなっている。市立船橋はエース・赤穂雷太の覚醒が必要不可欠だが、この下級生ウイングの思い切りの良さは今後への光明といえるだろう。
それぞれが真剣勝負のなかで手応えと課題を見出し、それらを今後の糧にしていく。むろん他校もさまざまな招待試合、合宿などをとおして、チームづくりに磨きをかけている。
桜前線は本州の北を通りすぎたが、高校バスケットの花たちはまだまだ蕾の状態である。開花のときまでじっくり見守ってみよう。