「去年の6月にチームが再始動して、そこからちょっとずつ変化を加えながら、正直『よくここまで来たな』というのが僕たちの中にはあったりもするので、負けたことはもちろん悔しいですし、このメンバーで勝ちたかった気持ちはあるんですが、ファーストステップとしては良い着地ができているのかなとも思います」
香西には、勝ちたい理由もあった。小学6年生でこの競技に出会って以来、ともに歩んできたのが当時千葉ホークスのチームメートだった及川晋平。その後NO EXCUSEと日本代表で選手とヘッドコーチという関係になり、長く共闘してきた間柄だ。及川への感謝の気持ちを香西はずっと持ち続け、結果がどうであれ、ここまで一緒に努力してきたその事実に誇りを持っている。
「個人的な話ですが、及川HCは車いすバスケットボールを始めた12歳のときからずっといろいろ教わってきた恩師。その晋平さんと一緒に勝ちたいという気持ちは常にありました。でも、勝ちたい勝ちたいという気持ちが強ければ勝てるというわけではないじゃないですか。だからこそ、自分たちのやるべきことをやろうということで、今日も試合に入っていったんです。勝敗ってどっちに転ぶかわからないし、コントロールできないことに注力するのももったいない。自分たちのやるべきことをやり続けようとみんなで言ってやった結果、負けてしまった。ある意味で悔いはないというか、ここまでの自分たちの全ては出せたかなと思ってます」
当の及川HCも、「選手たちは勝つことしか考えてないし、勝ちたい気持ちは高いか低いかではなくみんな持ってるもので、それは十分感じてました」とチーム全体が勝利を目指す姿勢を持って戦ったことを改めて示し、中でも香西については手放しで称賛する。勝利を目指して努力したことは、時として勝利と同等の価値を持つ。NO EXCUSEというチームにも、香西にもそれだけの価値は備わっているのだ。
「香西は本当によくやってくれました。あれが勝ちじゃないかと言ったら、僕は勝ちだと思ってます。いろんな要素があって結果になるので、あとはちゃんとやることをやって待つしかないんじゃないですか。別に僕のために勝ちたいとか思わないでください(笑)。僕は、みんなが勝つためにどうすればいいかを考えてるだけなんです。僕はまず、選手がよくやったということを称えたいです。コロナで本当に大変だったので、競技ができることさえも幸せだと思うし、コロナに悩まされながらもチームを作ってきたことは、選手がよくやってくれたと思います」
そして及川HCは、こう付け加えた。
「この結果は、悔しいとかで済まされるような簡単なものではなくて、『こうやって生きていこう』ということなんだと思います」
スポーツには、勝敗を超越した大事なものがある。それは健常者の競技であろうと、パラスポーツであろうと同じこと。そのことを示してくれた香西と及川HC、NO EXCUSEというチームの生き様を見ると、彼らも人生の勝者なのだと思わずにはいられない。
文・写真 吉川哲彦