「メンバーとの連携や支えがあって、僕はプレーできている」鳥海連志
タイヤが床に擦れて焦げ臭い。あぁ、車いすバスケが戻って来た。約3年半ぶり、東京体育館では5年ぶりとなる「天皇杯 第48回日本車いすバスケットボール選手権大会」が、久しぶりに多くのファンの前で日本一を争った。11連覇中の宮城MAXが初戦で敗れ、天皇杯は新時代に突入。ファイナルへ駒を進めたNO EXCUSEには日本のエースである#55 香西宏昭、そして日本代表を率いて車いすバスケのスキルを前進させた及川晋平ヘッドコーチが復帰し、初優勝を狙う。対するは、東京パラリンピック銀メダリストの#7 古澤拓也と#2 鳥海連志の若き逸材を擁し、勢いに乗るパラ神奈川スポーツクラブだ。
香西の3連発からスタートした決勝戦。しかし時間が経つにつれ、ディフェンスを信条とするパラ神奈川スポーツクラブの術中にはまっていく。第2クォーターは6点、第3クォーターを8点と一桁に抑え、逆にトランジションを走って得点を重ねたパラ神奈川スポーツクラブが51-44で勝利。1997年以来、22大会ぶり4度目の日本一に輝いた。
NO EXCUSEの及川ヘッドコーチは、「パラ神奈川のプレスディフェンスはお墨付き」と警戒していた。対する鳥海は、「ディフェンスでプレスに行く場面やハーフコートはしっかり守る。このシステムの切り替えと、相手が打ちたい場面でシュートを打たせないこだわりで、かなり良いディフェンスができたと思います。ディフェンス重視の大会でした」と勝因を挙げる。
パラ神奈川スポーツクラブは、オフェンスでも目を見張るものがあった。キャプテンの鳥海は、コートバランスが悪くなる度に声をかけ、広がりながらスペースを作る。左右へ振り分けるスキップパスからアウトサイドシュートを狙う。決勝ではシューターの古澤が10点、#5 丸山弘毅は12点を決めた。ディフェンスが広がれば、ハイポインター(※障がいの程度による持ち点であり、ポイントが低いほど重度障害)の#34 西村元樹がインサイドでチャンスを作り、7点。鳥海が得意のドライブでゴールへ進撃し、チームハイの22点でチームを勝利へと導いた。
銀メダリストの古澤&鳥海コンビに注目が集まる。しかし、鳥海は「メンバーとの連携や支えがあって、僕はプレーができています。チームで勝った喜びはとても大きいです」と述べ、全員で勝ち獲った日本一である。その鳥海はMVP受賞、古澤とともに丸山が大会ベスト5に選ばれた。
「僕がもっと成長すれば優勝できたかなという思いもあり、そこがすごく悔しかった」丸山弘毅
「前回大会で3位になれたのは古澤と鳥海のおかげ」と振り返る丸山。表彰台に上がる躍進に喜ぶパラ神奈川スポーツクラブだったはずだが、丸山の胸中は曇っていた。
「僕がもっと成長すれば優勝できたかなという思いもあり、そこがすごく悔しかったです。まわりからも古澤と鳥海のチームだよね、あの2人がエースだよね、とずっと言われ続けてきたので、そこに自分が絶対に割って入っていくことを信じて、努力してきました」