世界の強豪を招き、2020年東京パラリンピックへ向けた車いすバスケットボール日本代表の強化試合を行っている「三菱電機ワールドチャレンジカップ」は2日間に及ぶ予選リーグを終えた。日本は初戦のドイツに65-60で競り勝ち、好スタートを切る。ダブルヘッダーとなった2日目は、オーストラリアとカナダと対戦。前回大会でオーストラリアには1点差で敗れている。その後、今年8月に行われたIWBF世界選手権アジア・オセアニア予選では59-75で完敗。同地区のチャンピオン、オーストラリアに挑んだ日本は52-44でついに勝利を挙げ、昨年から取り組んできた強化の成果を挙げることができた。夜に行われたカナダ戦も勢いそのままに64-53で下し、3連勝で予選リーグ1位で突破。本日6月10日(日) 16:15より武蔵野の森総合スポーツプラザにて優勝を懸け、再びオーストラリアに挑む。
オーストラリアに勝ち切った自信の源
リオパラリンピックで見つかった課題をもとに、昨年からディフェンスをベースにトランジションバスケに取り組んできた。当初は#24村上直広選手も「練習後は吐きそうになった」と地獄のような日々を振り返る。トランジションバスケは、40分間フルコートを走り回らなければならない。そのためにはこれまで以上のフィジカルが必要になる。有馬正人フィジカルコーチによるバトルロープやチェアスキル(タイヤ引きのようなもの)などを取り入れ、1年間をかけて全身の筋力アップを図ってきた。#55香西宏昭選手も「たくさん走り込みしながら、コンディション以外でも走るバスケをしてきて、体力は確実に上がってきています」と明らかな変化がみられはじめている。
それゆえに体格差で勝るはずのオーストラリアを相手にも、「フィジカルではこっちの方が上だということをいかに見せるかを意識していました」と村上選手は言う。オーストラリアも同じく、スピードを生かしたトランジションバスケを主体とするチームであり、劣勢に立たされると「荒いプレーでメンタルを削りに来る」試合巧者な選手たち。「そんなプレーでは僕らの心は折れない」とフィジカル強化とともに屈しないメンタル強化も行ってきた。
「昨年は苦しかったけど今では同じトレーニングをしてもやり切れるようになっています。このフィジカルを手に入れたわけだから、あとは荒いプレーをされても受け止められるだけのメンタルで冷静にプレーすることを心がけていました。冷静かつアグレッシブなプレーを忘れずに、40分間プレーし続けたことで、追いつかれたときもその芯があったからこそ勝ち切れたと思います」(村上選手)
もう一つ、「僕らのディフェンスがあるからこそ思い切ってシュートを打てるようにもなっています」と香西選手はオフェンスでの相乗効果を明かす。これまでは香西選手、そして2010年IWBF世界選手権で得点王にもなった#13藤本怜央選手が得点源となり、その善し悪しで結果につながってもいた。しかし、若手も台頭してきた今は他の選手も得点を挙げはじめている。この2人に加え、#7古澤拓也選手12点が二桁得点を挙げ、カナダ戦では#2豊島英選手も10点を挙げ、選手層は確実に上がってきている。藤本選手もそこに手応えを感じていた。
「僕は日本が勝つために2004年アテネからずっとやっており、自分の活躍はどうでも良いと思っています。ドイツ戦で二桁得点が3人も出たことは率直に言ってうれしいです。世界に勝つためにはそいうことなんだな、ということを昨日の試合で確信しました。当然その中で僕が二桁を獲ることは責任であり、(及川晋平)ヘッドコーチからももう少し得点を獲ることにフォーカスしなければいけないことをドイツ戦から言われてもいました。体はデカいわりにあまり主張しない派なので(笑)、そこは課題です。長い間、大黒柱として点を獲ることを仕事にしてきたので、それは常に心に置きながらも、周りを使いながらみんなで点を獲っていく割合を増やしていきたいです」(藤本選手)
頼もしい仲間たちを手に入れ、ディフェンスとトランジションバスケを武器に優勝へ向け、そして2020年東京パラリンピックでのメダル獲得を目指し、着実に前に進んでいる。その過程をぜひ今から見てもらいたい。観戦無料でき、19時からBS日テレでテレビ放送もある。また、13:50〜女子日本代表vsオーストラリア戦も行われ、練習試合を含めて2連勝中であり、3勝目を目指す。
文・写真 泉 誠一