残念ながら準優勝で終えた千葉ジェッツの伊藤俊亮選手(38歳)は、今シーズン限りで現役を引退した。同じく千葉にある車椅子バスケチームの名門である千葉ホークスの伊東容臣選手(41歳)は、チームの危機的状況に現役復帰を果たした。
今年の千葉ホークスはシューターの土子大輔選手が宮城MAXへ、パワフルな千脇 貢選手はNO EXCUSEへ移籍。リオパラリンピックに出場した日本代表2人を失って迎えた天皇杯 第46回日本車いすバスケットボール選手権大会だった。初戦の相手は、10連覇を目指す宮城MAXである。千葉ホークスもそれまで9回の優勝を誇る古豪であり、最多優勝回数で並んでいた。
「10連覇を阻止するために僕が戻ってきたつもりでしたが、残念でした」
過去の優勝を知るベテラン伊東選手が復帰し、千葉ホークスを引っ張ったが34-91と歯が立たなかった。翌日も勝ち進んだ宮城MAXは10度目の優勝を成し遂げ、最多優勝記録を塗り替えた。
オフェンス力が高い宮城MAXに対し、終始オールコートマンツーマンディフェンスで対抗する策を練って臨む。「予想以上にインサイドから攻められてしまったのが敗因です。なるべくアウトサイドシュートを打たせるディフェンスをしていたのですが、そこまで持っていけなかったです」と伊東選手は振り返る。
千葉ホークスの伝統を聞けば、「そこはなかなか難しいところです」と伊東選手も明確な回答を見出せない。強かった頃のカラーが薄れてしまった今、「信頼しているチームメイトや強みであるプレーでも、試合中にミスが出てしまっていました。それに対して、ゲームの中で修正することができていません。まだまだ若さが出てしまったと思います」と王者との対戦から課題点が浮き彫りになった。
日本代表の2人が抜けたことは大きなダメージであるが、「千葉ホークスはそういったことをずっと繰り返してきたチーム。特に問題はありません」と言い切る。日本代表のエースである香西宏昭選手も、前回紹介した森 紀之選手(ともにNO EXCUSE)も、かつては千葉ホークスの一員だった。
ゼロからの立て直しがはじまったばかりの千葉ホークスに対し、「これまで中堅クラスがくすぶっているところがありました。ローポインターですが若手も良い選手がいます」と、伊東選手がその素材を引き上げていく役割を担う。これまでもチームの主力であった山口健二選手(34歳)や天羽勝彦選手(33歳)ら中堅の選手が今後のチームの柱となる。また、日本代表にも名を連ねている緋田高大選手(22歳)と川原 凜選手(21歳)の若きローポインターの成長は楽しみだ。
これまでは日本代表選手たちの影に隠れ、経験値が足りない選手が多いのは今大会を見ても否めない。だが、チャンスを得た今いる選手たちこそ自信を持って前に進めば、再び千葉ホークスの時代が戻ってくるはずだ。
「私が帰ってきたのも、もう一度強い千葉ホークスを作ることが一つの理由です。杉山(浩)ヘッドコーチと田中(恒一)アシスタントコーチは、優勝していた頃に一緒にプレーしてきたメンバーです。僕が優勝経験を知る最後の世代であり、その後は空いてしまっています。バスケットの中身ではなく、精神力の部分をしっかりと作っていきたいです。もう一度、積み上げ直すことからはじめていきます」
成功体験をしてきたベテランとスタッフがおり、実績ある中堅と勢いある若手も揃っている。すぐに結果は出ないかもしれない。しかし、これまでの伝統がベースにし、古豪復活を待ちたい。
文・写真 泉 誠一