車椅子バスケ選手たちの年齢幅は広い。日本一を争う「内閣総理大臣杯争奪 第45回記念日本車椅子バスケットボール選手権大会(以下選手権)」には全国各ブロックから16チームが出場し、男女172名が参加した。平均年齢は34.5歳。
下は14歳から最年長は72歳まで、還暦を越えた60代の超ベテラン選手は5人もいる。平均年齢が示すとおり30代が一番多いが、割合にすると35%程度。続いて20代が25%、40代もほぼ同じく23%であった。年齢層が分かると、20代前半の選手はとてつもなく若いことに気付かされる。昨年のリオパラリンピック出場メンバーの平均年齢は30.6歳だったが、17歳で日本代表に選出された鳥海連志選手(佐世保WBC)がグンと平均を引き下げてくれただけ。12人中7人がオーバー30であった。
3年後、東京にやって来るパラリンピックでの活躍を期待するとともに、2020年以降こそさらに脂がのってくる20代前半の選手に注目し、今年の選手権を見ていた。すでに紹介した宮城MAXの萩野真世選手も24歳であり、その一人である。
王者に競り負けたことで得られた手応え
「モリヤ!モリヤ!!」と日本代表のエースでもある香西宏昭選手がコート上でしきりに名前を呼ぶ。プログラムに目を落とすと、バスケの神様と同じ23番を背負う森谷幸生選手。持ち点4.0のハイポインター。24歳──そこから森谷選手の動きを追いかけ始めた。まだまだシュートは不安定なところもあるが、リバウンドは強い。うまくマークを引き寄せてパスも出せる。
昨年の試合を振り返れば、NO EXCUSEは香西選手のチームだった。敗れはしたが、準決勝で宮城MAXを63-69と苦しめた試合では、香西選手が一人で38点を挙げている。しかし、バスケットは5人で戦うスポーツ。香西選手だけの力では勝てず、他の選手たちの底上げが必要だった。
昨年の選手権で宮城MAXに競り負けた後の森谷選手は、「『間違いなく来年は優勝できるだろう』という手応えをみんなが感じていました。だからこそ、あとはやるだけ。僕はまだまだ若いし、未完成の部分も多く、伸びしろがあると思ってもいました。その後は徹底して、日曜日も返上して練習してきました」と優勝を目指して練習に打ち込んでいった。
NO EXCUSEの一員として選手権に出場する香西選手だが、主戦場はドイツプロリーグ・ブンデスリーガ『BG Baskets Hamburg』に所属。プレーオフまで勝ち進んだ今シーズンが終わったのは4月中旬のことであった。「香西選手が帰ってくるかどうか、不透明なところが多かったです。でも、香西選手が帰ってくるから優勝を目指すのかといえば、そうではない」とNO EXCUSEの選手たちは自問自答する。
香西選手はチームにとって欠かせない、大きな存在であることは間違いない。だが、どんな状況であっても、昨年から掲げてきたNO EXCUSEの目標がブレてはならない。チームミーティングを行って出した答えは、「たとえ香西選手が帰ってこなかったとしても、優勝を狙えるチーム作りをしよう。日々の練習から手を抜くことなく、常に優勝を狙う。千葉ホークスに勝つ!埼玉ライオンズに勝つ!宮城MAXに勝つ!」だった。
エースに頼ることなく勝てるバスケットを追求したことで、新たなる土台ができた。幸い、ブンデスリーガを終えた香西選手も無事帰国し、練習に合流すると「チームの雰囲気がガラリと変わった」。選手権へ向けたピースが揃い、優勝へ向けてスイッチが入った瞬間である。
チーム力を上向かせたベテランと若手の融合
初優勝を懸けて臨んだ宮城MAXとの決勝戦。第3クォーターを終えた時点では、41-39でNO EXCUSEがリードしていた。だが、第4クォーター開始早々にフリースローを与えてしまい、41-41と同点に追いつかれてしまう。さらに宮城MAXは、エース藤本怜央選手のパワープレーでリードを奪った。だが、NO EXCUSEも怯むことなく前に出る。森谷選手の活躍もあり、3点差を追っていく。ラストシュートを託された森谷選手の3Pシュートは外れ、NO EXCUSEは52-55で敗れ、目標を達成することはできなかった。
「香西選手らしいプレーが出せていたし、周りの僕らも僕ららしいプレーができていました」
決勝では香西選手の20点に続き、佐藤大輔選手と森谷選手がともに10得点を挙げた。今大会を通じてコンスタントに二桁得点を挙げる選手が増えたのはチームとして大きな成長である。
香西選手は、「ベテランと若手の融合がチームの強みになっている」と話していた。これまではベテランに頼りきりだったことを認めた上で、森谷選手は「お互いに尊重し合えて、お互いに強みを持ったことが良かったと思います。僕ら若手なりのプレーが生まれてきていますし、ベテランは安定したプレーがそもそもある。それを融合したのが今の結果につながったというのは、とてもチームとして良い雰囲気になっています」と手応えを感じている。
優勝には届かなかった。だが、「選手権で優勝することはみんなが譲れないところでもあるので、文句も言わずにやってきた練習がこうしてつながっているなと思うと、すごく報われた感じがしています」。日曜を返上して取り組んできた努力は、少なからず実を結んだ。
「自分のやるべきことをただひたすら集中」していた現在の森谷選手だが、今後はリーダーシップを取りながら、視野を広げていくことが求められる。また、最後に決めきれなかった3Pシュートやミドルシュートの精度を上げられるようになれば、東京パラリンピックで主役に躍り出る可能性だってあり得る期待の星。
香西選手が日本にいる間は、「練習中から世界基準のプレーを見ることができ、良い刺激になっていますし、練習の士気が上がります」。しばし休んだ後は、再び日曜日を返上していただき(笑)、トップ選手から多くのことを学んで、さらに成長した姿が見られることを楽しみにしている。
文・写真 泉 誠一